なぜ球数制限だけが導入されたのか? 日本の野球育成年代に求められる2つの課題
なぜ球数制限だけが導入されたのか?
なぜ、中途半端なルールになってしまったのか。 その要因は、「球数」しか考慮に入れられなかったからだと想像します。もちろん投手の故障予防は重要ですが、高校野球は育成年代であり、かつ教育の一環として行われていることを踏まえると、是非を検討されるべきものがほかにもあります。 その一つが金属バットです。日本で2023年まで使用されている金属バットは、国際大会では「規定違反」とされます。なぜなら反発力が強すぎて“飛びすぎる”からです。金属バットの反発力が高すぎると、打球スピードが速くなるため、特に投手やサード、ファーストには危険が高まります。加えて、バットを内から出すという〝正しいスイング〟が身につきにくい。そうした理由もあってドミニカでは中学生年代から木製バットが使用され、アメリカの高校年代の公式戦では「BBCOR」の認定を受けた低反発の金属バットが採用されています。 日本でも2024年から、金属バットに厚みを持たせることで飛距離を抑えたバットしか使えないという規定が設けられますが、BBCORのように反発計数に関する規定はありません。 金属バットは耐久性に優れるという利点がある一方、日本で2023年まで使用されているものは、世界基準で見ると明らかに飛びすぎます。つまり打者有利になるため、投手は直球勝負ではなく変化球でかわすピッチングになりやすい。 高校球児が育成年代であることを考えると、ストレートを磨いた方が将来の飛躍につながりやすいと思います。少なくともドミニカのサマーリーグではそう考えられ、スライダーや変化球の割合に制限がかけられています。
環境要因の課題。負けたら終わりのトーナメントでは…
二つ目はもっと大きな環境要因で、トーナメント戦という試合形式です。負けたら終わりだから、エースを引っ張らざるを得ない。論理としてはわかりますが、一発勝負のノックアウト方式は選手の育成や成長には最適ではありません。だからこそドミニカではリーグ戦が採用されています。 負けても“次”があるリーグ戦なら、そもそも選手個々に無理を強いる必要はありません。監督はリーグ戦をトータルで星勘定して、どうすれば勝ち抜けるかを考えて選手起用をしていけばいい。エースが故障して投げられなくなればチームにとっても痛いので、違和感があるのにマウンドに立たせるわけにはいきません。逆に言えば、控え投手やベンチメンバーにもチャンスが回ってくるということです。バッターはもし打てなくても、次の打席で取り返すチャンスがある。だから、思い切って振っていける。 ベンチで指揮する監督にも同じことが言えます。 負けたら終わりのトーナメントでは送りバントを指示するような場面でも、リーグ戦なら積極的に打たせていける。だからこそ私は、高校野球でもリーグ戦を導入するべきだと考えています。さらに言えば、実力拮抗したチーム同士のリーグ戦にして、多くの試合ができるようにすれば、切磋琢磨しながら成長していけます。2022年夏の高校野球千葉大会では「82対0」という試合がありましたが、どちらのチームにとっても得たものは少なかったはずです。 約10年前から野球人口減少に歯止めがかからず、高校野球でも「連合チーム」が増えてきました。一方、強豪私学では部員100人を超えるケースもあります。しかし、大会に出場できるのはどの高校でも1チームのみです。もし1校から複数チームがエントリーできるようになれば、せっかく野球をしたくてチームに入ったのにスタンドで応援しているだけ……という選手をなくすこともできます。