トヨタ、月へ行く 寺師副社長インタビュー(1)
[映像]トヨタ寺師副社長インタビュー
トヨタ自動車が月面探査プロジェクトに乗り出す。その挑戦は、地上でのクルマ技術を月でも実現する「リアルとバーチャルの融合」だと、豊田章男社長の言葉を借りながら語るのは、副社長の寺師茂樹氏だ。電気自動車(EV)対応が遅れていると揶揄されることの多い同社だが、世界的な潮流である電動化という次世代戦略を、トヨタの技術トップはどう考えているのか。モータージャーナリストの池田直渡氏が余すところなく聞いた。全5回連載の1回目。 【図】トヨタ2029 電動化を最適化する 寺師副社長インタビュー(2)
◇ 3月12日。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とトヨタ自動車は国際宇宙探査ミッションでの協業の検討開始を発表した。10年後、われわれはおそらく日本人宇宙飛行士が月面に降り立つ場面を目にするだろう。月面には日の丸が掲揚され、トヨタが技術供与する人類初の与圧式月面探査車(ローバ)が月面の5か所の調査を含む1万キロ以上の月面走行を行うことになる。 この宇宙探査ミッションでは、人類の活動領域の拡大と知的資産の創出への貢献をテーマに国際協働かつ産学協働のプロジェクトとなる。 月までのアクセスを「地球-Gateway」(月近傍有人拠点)、「Gateway-月面」、「月面での移動を含む基地としてのローバ」の3つに分離する。ローバは調査拠点の間を無人のAI(人工知能)運転で移動し、宇宙飛行士は調査や実験、車両のメンテナンスなどの必要に応じてGatewayからローバへ月面離着陸機で移動する。 この国際宇宙探査ミッションについて、トヨタ自動車技術部のトップである寺師茂樹副社長にロングインタビューを行った。
“リアルタイムで自動生成の地図を作りながら、AIで走っていくことになります”
寺師:もともとこのお話をいただいたのは、やっぱりランクル(ランドクルーザー)やハイラックスと言ったクルマが、世界中の色んな地域の過酷な条件下で、どんなところに行っても、必ず乗った人を連れて帰ってくると言う実績が評価されたからです。トヨタのクルマの耐久性とか信頼性とか走破性を評価してもらえたということですね。加えて、月面ミッションに必要な、CASE(Connected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared/Service:シェア/サービス、Electric:電動化の頭文字で今後の自動車に求められる技術の総称)の評価ですね。シェアリングはたぶんないと思うんですけど、一番はやっぱり、走行のための動力源をどうするかという技術と、自動運転です。月面の場合はAIで路面の判断をしながら自動運転するしかないんです。どこかの地図メーカーに地図を作ってもらうわけにはいかないので、リアルタイムで自動生成の地図を作りながら、AIで走っていくことになります。 池田:それはデータを1回送信するんですか、それとも車両に搭載のコンピューターでやるんですか? 寺師:一部は送るのもありますけど、やっぱり地球までデータを送って返ってきて、それから指示が出ても、時間差があるので間に合いません。基本はやっぱりその場の自律判断で走破していく必要があると思いますよね。 池田:CASEの実力が問われるわけですね? 寺師:そうですね。電動化も、コネクティッドのつながる技術も、AIを使う自動運転も重要なんで、まさに僕らがこれまでやってたリアルのモビリティ、つまり伝統的自動車技術の信頼性と、これから重要になるCASEという新しい技術を高度に融合させることが求められているんです。社長の豊田の言葉を借りると、「リアルとバーチャルの融合」。今回はそれを地上だけでなく月でも実現するっていう、そういうことなのかなって思います。