トヨタ、月へ行く 寺師副社長インタビュー(1)
池田:今回の計画は、いつごろまでにやろうという話なんでしょう? 寺師:2029年。10年後には、みんなで月面に降り立とうっていうことです。事前に行って予行演習するわけにいきませんので、かなり早い段階でクルマっていうかローバの基本スペックを決め、それをどうやって具現化するかを考えなくてはなりません。そのためには、環境条件がどうなってるかを調べて予想していかなきゃいけないんですけど、これはJAXAとトヨタだけではなく、他の人たちの協力が不可欠です。トヨタにクルマの基本はあっても、そこに入る技術はオールジャパン、たぶん日本の大きな会社、小さな会社、関係なく参加していただいて、必要と思われる技術をまず最初に全部洗い出す作業が要るんだろうなって。 池田:そこに参画する企業名って、もう決まってるんですか? 寺師:いや、どんな技術が要るのかっていうのは、全部これからです。宇宙を飛行する技術は、たぶんJAXAの方でこれまで色々とやられてると思うんですけど、月面上で走るっていうと、初めての経験です。その時何が起きるかっていうのを、いろんな専門家と知恵を出し合っていかなくてはならないです。例えばたぶん、ゴムのタイヤでは走れないですよね。 池田:ちょっと調べてみると、有人で月面を走ったのって過去3回、アポロ計画の15、16、17だけですよね。で、その最後から、もう47年経ってると。直近で言うと2013年に中国が「玉兎号」を走らせていますが、これは無人です。そういう意味では、有人で言えばアメリカに次いで日本が2番目。それから、無人だとしてもアメリカ、旧ソビエト、中国の次に日本っていう形になって、大変名誉のある話ですよね。しかも与圧式の車両で車内で宇宙服を脱げるというのは完全に初めてのことですよね。 寺師:そうですよね。ええ。ワクワクしますよね。 池田:そこで使うのは燃料電池なんですね? 寺師:実は、水素を使った燃料電池はアポロ計画から使われてきました。ローバだけでなくいろんな動力が水素なのです。ですから、CASEの様な新たな技術と同時に、このジャンルで伝統的に培ってきた技術ももっと熟成していかなきゃいけないので、エネルギー源は水素を使います。僕たちがこれから目指すのは、月に水素の社会をつくることです。 池田:そうすると、JAXAがトヨタを選んだ理由は、やっぱトヨタの信頼性と実績が、ランクルをはじめとしてあったからということで、トヨタが参画を決めたのは、燃料電池という中核技術がトヨタにあるからという理解でよろしいですか?