新紙幣の製造コストは1枚約20・4円 現紙幣より1割以上高く、新技術や原料高が主要因
約20年ぶりとなる新紙幣が7月3日に発行される。近年の物価高や偽造防止を強化する新技術が施されたことなどにより、今回は製造コストが押し上げられた。1枚当たりの製造原価は約20・4円で、現行の紙幣に比べ約13%高い。特に紙幣の用紙の原料は大半を輸入に頼っており、最近の円安傾向がさらなる原価の押し上げ要因になっている。 【写真】新しいお札のおもて・うら ■30億枚製造に619億円 紙幣の正式名称である「日本銀行券」は、日銀が発行し、国立印刷局が製造する。日銀は1万円札や5千円札など各紙幣の製造コストの詳細について、「偽造防止の観点から明示できない」としているが、日銀が公開している財務諸表などから紙幣1枚当たりの製造コストを平均値として割り出すことができる。 参考としたのは、新紙幣のみを製造した令和5年度のデータだ。この年の銀行券の製造費約619億2509万円を、製造枚数の30億3000万枚で割ると、1枚当たりの製造原価は約20・4円と算出される。同様の方法で、現行の紙幣のみを製造していた3年度のデータ(製造費542億9169万円と製造枚数30億枚)から算出した現行紙幣の1枚当たりの原価は、約18・1円となる。単純に比較すると、新紙幣の1枚当たりの製造原価は現行より2・3円高く、増加率は約13%となる。 日銀は、コストアップの要因について、「偽造防止強化のために新たに3D(3次元)ホログラムといった新技術を施したことに加え、近年の光熱費や人件費、原料などの高騰による影響」(発券局)と説明する。 ■用紙原料は輸入に依存 国立印刷局によると、新紙幣に使われている用紙の原料には、現行と同じミツマタとアバカ(マニラ麻)が使われており、「独特の色や風合いが偽造防止につながり、耐久性も強い原料の特性がある」という。 ヒマラヤ地方原産のミツマタは和紙の原料にも使われており、兵庫県や徳島県でも栽培されている。だが、需要の低迷と農家の減少により国内の生産量は激減しており、「平成22年度から国産ミツマタの不足分を補うため、多くをネパールや中国から調達している」(同局)。また、アバカも産地のフィリピンから輸入したものを使用しており、用紙原料の大半を輸入に頼っているのが現状だ。 ちなみに、新紙幣に使われているインクは、顔料とワニスを独自配合した現行のものから変更され、新たに設計・調整したものが使われている。偽造防止技術との関係性がより強いことから、インクについては「原料や調達先も含めて詳細は非公表」と強調している。
新紙幣の製造は令和4年度から始まり、5年度までに1万円札が24億8000万枚、5千円札2億6000万枚、千円札が17億9000万枚、計45億3000枚(金額計27兆8900億円分)が製造された。6年度は、さらに1万円札を18億3000万枚、5千円札を2億1000万枚、千円札を9億1000万枚製造する予定だ。(西村利也)