舞い飛び歌う、冬の使者「白鳥」 収穫が終わった水田地帯に響く鳴き声 彩時記~12月・師走
今年もシベリアから〝冬の使者〟が渡ってきた。成田空港にほど近い千葉県印西市本埜(もとの)地区。多いときには1千羽以上が越冬する「本埜白鳥の郷」は、収穫が終わった水田地帯にある。 【表で見る】7日は大雪(たいせつ)など 12月の主な行事 コウコウ、コウコウ…。 稲の切り株からのびる「二番穂」をついばみながら時折、よく通る声で鳴く。英名「swan(スワン)」の語源は、「歌う」という意味を持つ。 「オオハクチョウはトランペットのファンファーレに似た甲高い声、コハクチョウはクラリネットやトロンボーンみたいな低音。1シーズンで聞き分けられるようになりますよ」 白鳥の保護活動を行う「本埜白鳥を守る会」のメンバー、石井ユウ子さん(61)が、鳴き声の違いを教えてくれた。 その美声が一段とにぎやかになったのは、午後4時過ぎ。水鏡が夕映えと白鳥をうつし出す幻想的な情景に心を奪われた。長い首を上げて、日が沈む方向にくちばしを向けている。 「風向きをみているんですよ。もうすぐ、かな?」。同会の出山輝夫会長(76)がつぶやく。鳴き交わす声が途切れた次の瞬間、風に向かって9羽の白鳥がふわっと飛び上がった。大きな翼に風を受けながらぐんぐん加速する。 小さな後ろ姿を見送りながら出山さんは、「『鶴の一声』というけれど、白鳥も同じ。春一番が吹いて、シベリアへ向けて発(た)つときも『さあ行くよ』と鳴き声で合図します」。 これまでは毎年、田んぼに水を張って、白鳥が集まり休みやすい環境を整えてきた。今年から100メートルほど離れた場所に切り替えたところ、そこには定住せずに、どこかから通ってくる状態になったのだとか。 「警戒心が強く、水の上でないと夜は明かさない。一部は、50キロほど離れた茨城県南西部にある菅生沼(すがおぬま)がねぐらなのでは」と出山さんは推測する。石井さんは「長旅をして来るのは安全な場所と信じているから。ゆっくりと羽を休めてほしいけれど」と表情を曇らせる。 32年前、排水路工事のためにたまたま水をためた田んぼに6羽が降り立ったのが、白鳥の郷の始まりだ。県の鳥獣保護員だった出山さんの父、光男さんが手探りで餌付けを試みた。翌年は12羽、その次の年は23羽とだんだん増えていった。