「日本のマンガが人気」というイメージに反して、じつは「フランス人の大人」はあまりコミックを読まないという現実
11~14歳 アニメの影響から日本マンガをもっとも積極的に読む年代
11-14歳になると、とくに13歳以降に日本マンガの読書量が急増する一方、BDは「子どもっぽい」と感じて離れていく傾向がある。親からの影響が弱まる一方で仲間からの影響が強まり、NetflixやCrunchyrollなどのSVODプラットフォームを通じてアニメを視聴したのをきっかけにマンガを読み、学校で話題にすることが多くなる。 マンガへの移行が進む要因としての指摘でおもしろいのは、BDは基本的に巻売りだしシリーズものでも1年か2年に1冊程度、1冊平均45~60ページほどなのに対して、マンガは1冊200p弱のものが3、4ヶ月に1冊ペースで刊行されることが、「待てない」ティーンエイジャーの焦燥感に応えているからだ、と言っている。また、マンガは1話が短いから、スキマ時間の読書ができるのもいい、と。このあたりのことは日本でもしばしば言われていることだが、外国人からも日本マンガの特徴として認識・指摘されると少し新鮮である。 それから、この年代になると西洋の価値観への疑問や違和感を抱くようになることも、日本マンガへの関心を後押ししていると書かれている。どうもフランス人はいわゆる「中二病」の時期に日本マンガに惹かれるらしい。 近年では徐々にSnapchat、TikTok、Instagramを通じたタイトルの発見が増えてきている一方、広告の影響力は弱まっている。また、デジタルメディアの影響という意味では、ウェブトゥーン(縦スクロールのデジタルコミック)の読書も中学校の終わりから始まる。更新頻度が高い連載形式の配信である点がやはり重要だ。 とはいえ「アニメから入る」フランスのローティーンにとってはウェブトゥーン原作アニメはまだまだ制作本数自体が少なく、ヒットとなるとなおさら少ないため、コミックに流れてくる人の数も日本マンガと比べると限定的だと推察される。
15~25歳 グラフィックノベルを読むようになる一方、マンガの大人買いも発生
フランスでは少し上の年代の消費行動を観察するなかで「マンガは11~14歳くらいのもの」と認識する傾向が強いようで、高校進学を節目に「マンガ離れ」する層が増えていく。 15~25歳になると、コミックに限らず積極的な読書習慣が減少していく。ただしスマホを手に入れたことによってデジタルコミックに対してはもっともオープンになり、ウェブトゥーンも読む。影響源は友だち、ソーシャルネットワーク、書店になる。 コミックを選ぶ基準は、この年齢になると表紙だけでなく、キャラクターやジャンル、価格、メディアでの評価なども考慮するようになる。 この年代はフランス政府が若者に文化や芸術に触れてもらうために創設した「カルチャーパス」を使用してコミックを購入することが多く、とくにマンガがこれで買われたことはよく知られている。カルチャーパスは電子書籍にも使えるが、大人よりも若者のほうが日本でも電子よりも紙の本を選びがちだから、日本マンガの単行本が好調な一方でウェブトゥーン販売が伸び悩むのはわからないでもない(11~14歳では学校で話題にするとか流行りのアイテムとしてマンガが消費されるのであればなおさら電子より紙のコミックのほうが需要が高くなるだろう)。 20~25歳頃から「グラフィックノベル」が読まれるようになる。グラフィックノベルはほかのコミックよりも、より成熟した読書形態として認識されている(グラフィックノベルと言うとアメリカのコミックのイメージが強いかもしれないが、文芸性の高い内容のコミックはBDや日本マンガの一部も含むものとしてみなされている)。15~25歳の読者は、グラフィックノベルを美しい絵と独創的なレイアウトで構成された芸術作品とみなし、小説のような感動を覚えると報告されている。 日本マンガは女子よりも男子にアピールする傾向にある。ただ別にマンガを読み続けていても「マニア」扱いを受けるわけではないようだ。 おもしろいのは、学生から社会人になって働くようになると、日本マンガへ回帰していく人も少なくない点だ。学生時代に強いられていた勉強のための実用的な読書が終わること、購買力が増加して日本マンガの「大人買い」ができるようになることなどが背景だという。 マンガに限らず15歳以降になると、子どもの頃に読んでいたBDを再び手に取るようにもなり、作者が込めたメッセージや参考文献を把握しながらグラフィックやストーリーを深く理解するようになる。ただ、なかなか新規の作品の発見にはつながらないという。