大谷翔平選手の自宅をバラしたメディアの罪、「独自ダネ」競争の問題点は?…プライバシーに踏み込む危うい構図
■ メディアの「プライバシー侵害報道」はなぜ生じる? 一般人であっても、自宅の写真や住所が明かされることは個人情報やプライバシーの観点から嫌がるのが当然で、大谷選手のようなトップ選手であればなおさらだろう。こうした報道は、プライバシー保護の観点だけでなく、防犯面からも明らかに配慮に欠けていた。 海外では俳優や歌手、スポーツ選手ら有名人やセレブの自宅が空き巣や窃盗、強盗などの被害に遭うケースが目立ち、特にスポーツ選手の場合には、試合時間や遠征時に自宅が空き巣被害などに遭うリスクが高い。 実際、元サッカー元日本代表の内田篤人氏が海外でプレーしていた時代の試合中に空き巣被害に遭ったことを出演番組で告白したほか、日本でも、プロボクサーの井上尚弥選手が世界戦の当日に自宅が空き巣被害に遭っている。 取材パスの凍結という“出禁”対応が事実であれば、大谷選手、ドジャースからすれば、こうした報道に対して、断固たる処置が必要だったことの裏返しといえる。 では、メディアによる取材先のプライバシーを侵害する報道はどのように生まれていくのか。 現代ビジネスで報じられた2つのメディアはいずれもテレビ局だった。新聞などの活字メディアが海外ニュースを訳し、引用した記事を出稿するのに対し、テレビなどはニュースとして報じるときに基本的には「映像」が必要になる。 日本メディアが海外配信の記事を引用する形で報じている中、「独自色」を打ち出すために自宅周辺での取材を敢行したのではないだろうか。ロサンゼルス・タイムズの記事を「1次情報」とし、そこに新たな要素を加えるための手法だが、「独自」の報道に傾倒し、ロサンゼルス・タイムズの記事で場所なども報じられているという前提が、大谷選手のプライバシーへの配慮という報道倫理を欠落したままの報道につながったとみる。
■ 独自色を出しやすいのは「オフ」ネタ 会社の中でのチェックが機能していないのかという疑問もあるだろう。だが、メディアの報道姿勢においては、すでに出ている情報を伝えるときに「プラスアルファ」をどう加えるかという視点が重要視される。 こうした中で、「自宅周辺で近隣住民の声を拾う」という情報が必要だったと考えられていた可能性も否定できない。もちろん、こうした取材手法は、映像メディアに限った話ではない。 大谷選手が試合後などに受ける取材は、日本メディア全体を対象としていることが多く、各メディアがそれぞれの媒体における報道に「独自色」を見出すことは難しい。 一般的に「独自色」を出せる可能性が高いのは、グラウンド外の「オフ」にまつわるエピソードだ。日々の食生活や体のケア、野球から気持ちを切り替えるときのリラックス方法などは顕著な例だ。 一方、選手の立場でみれば、グラウンド上でのパフォーマンスについての質問の場で、オフやプライベートに関する質問は避けて欲しいという本音もある。オフやプライベートに関してどこまで話を聞き、どこまで書くかは、記者と取材対象者の信頼関係に委ねられる部分が大きい。