「光る君へ」目指したのは人間ドラマ 「吉高由里子は天才」 チーフ演出・中島由貴さん
ただ、2人きりのシーンだけに、「見ている方にちょっとドキドキしてしてもらいたい」という意図もあったという。
日が暮れて2人が月を見上げるシーンでは、道長にはまひろのほうに向き直ってもらったり、月を見つめながら語っていたのがだんだんお互いを見るようになったり、という演出に。最後は、まひろが小さく拒否し、道長はそのまま帰るという流れになった。「(道長との)娘も生まれていて、まひろは、(男女の関係には)戻らないって覚悟がある。違う次元にいっているんです。道長が踏みとどまるという微妙な演技をしてもらっています」
■源氏物語の誕生
今作最大の山場ともいえるのが源氏物語の誕生場面。自宅の庭にいたまひろの頭上に、カラフルな和紙が降ってくる演出がされた。和紙に書かれているのはこれまでまひろがかかわった、和歌や漢詩だという。
「源氏物語を執筆するっていうのは特別。源氏物語自体が、ものすごい知識によって支えられている。その知識は紫式部の頭の中にある。脳内に溜め込んだ知識がアウトプットするっていう瞬間で、源氏物語に結びつけるっていうのを狙いたかった。あんまり説明臭くなく映像的インパクトで、そういう風に思ってもらえたらいいなっていう風に考えました」
■支えるのではなく
男女の関係を超えた2人の絆を表現したのが、第42回だ。心身ともに疲れ果て宇治で療養している道長の元をまひろが訪れる。
川辺で2人が立ったまま会話が進み、弱音を吐く道長をまひろが励ました場面でのこと。まひろ役の吉高から、「(道長に)寄り添いに行きますか」という提案があったが、中島さんの回答は「行かなくていい」だった。
「2人で立っている姿がすごく大事。ちょっと昔だったら寄り添っていたかもしれないけれど、そういう次元じゃなくなっているんです。支えることにあんまり意味がないというか、道長に1人で立っていてほしかったんです」。道長とまひろは、お互いに生きてほしいと願っていることを伝えあった。道長は政治の世界へ、まひろは源氏物語の宇治十帖の執筆へ。宇治での逢瀬を機に、それぞれが自分の人生に再び向き合っていった。「自分1人で立つことが生きることとイコールだと思ったので、彼女が彼を甘えさせるように寄り添ってはいけないという風に思いました」