「妻が専業主婦」世帯の少子化に「異変」。いま「在宅育児手当」の整備が急務だ【少子化対策の真実3】
「相対的な低所得」の被扶養者世帯にこそ金銭的支援が必要
夫婦とも正規雇用での共働きができるようになったことで、若い子育て世帯は全体的に豊かになっている。 30代の子育て世帯の世帯収入の中央値は、2017年から2022年にかけて13.2%増加した。一方、この間の30代男性の収入は1.9%の増加にとどまる。 女性が被扶養者の世帯も貧しくなっているわけではないが、「女性が被保険者の世帯」と比べた「相対的な低所得」が目立つようになってきたのだ。 女性が被保険者の世帯は世帯収入は多いものの、2人以上の子どもを望みながらも、年齢や健康面の課題により、現実に持つ子どもの数は1人にとどまることが多い。すると、結果として、2人以上の子どもを育てるのに十分であるはずの教育費が、1人の子どもに集中的に注がれることとなる。 これが、(世帯収入の出所が共働きの半分である)女性が被扶養者の世帯にとっては「1人あたりの教育費の高騰」に映りやすく、もう1人子どもを持つことのハードルを引き上げている可能性がある、と筆者は考えている。子育て世帯全般に対して児童手当を一律に引き上げても、子育て世帯内の世帯所得の格差は埋まらない。児童手当の所得制限の撤廃はむしろ、世帯所得の格差を広げてしまう。 女性が被保険者として働き続ける世帯のほとんどは、夫婦2人分の生涯賃金をもって、子育てのための費用を十分に賄えるはずだ。女性が被保険者の世帯に必要なのは、働き方改革や両立支援、男性の家事育児参加などである。 「相対的な低所得」の被扶養者世帯にこそ、世帯所得の格差を埋めるための金銭的支援が必要なのだ。
「一定所得以下の被扶養者世帯」にのみ、現金給付に出生率向上効果があった
図表3は、大和総研にて、健保組合が実施する出産育児付加金(出産時に出産育児一時金に加えて健保組合が独自に給付する一時金)が出生率に及ぼす影響を、被保険者・被扶養者それぞれの所得水準別に見たものだ。 データからは、以下2つの傾向が確認できる。 被保険者では女性の平均月収の水準にかかわらず、出産育児付加金と出生率に有意な関係が確認できなかった 被扶養者では男性の所得が一定以下の場合に限り、出産育児付加金が出生率を引き上げる効果が有意に確認できた 被扶養者世帯で出生率を引き上げる効果が有意であるのは、男性の(賞与を含まない)月給が60 万円程度までだった。これは、年収では1000万円前後となり、2024年6月の法改正前までの児童手当の所得制限基準額に相当する。法改正により児童手当の所得制限は撤廃されたが、これによる出生率上昇の効果は期待できないだろう。 分析結果は、子育て世帯に対する(仕事と子育ての両立と関係のない)現金給付は、年収1000万円程度までの被扶養者世帯にのみ効果を持つことを示唆する。費用対効果の高い少子化対策を実施する上では、現金給付は一定所得以下の被扶養者世帯に重点化すべきで、その手段としては、在宅育児手当の実施が適当だ。