鳥居で懸垂、放火容疑……日本文化を踏みにじる「傲慢インバウンド」 観光公害の末路? 他国軽視の背景とは
観光業の成長戦略に潜む危機
そもそも、迷惑な訪日観光客が出てくるのも「観光業がそういうものだから仕方ない」と諦めざるを得ない現状に、果たして未来はあるのだろうか。 政府は『観光立国推進基本計画』で観光業を 「今後とも成長戦略の柱、地域活性化の切り札である」 として高く評価している。確かに、人口減少に直面する地方では、宿泊業が重要な雇用を支えている地域も多い。しかし、この観光による「地域活性化」という物語には、大きな問題が潜んでいる。 観光業の中核をなす宿泊業は、需要の季節変動が激しく、その調整弁として非正規雇用が常態化している。さらに深刻なのは賃金の低さだ。2022年時点で、他の産業と比べて賃金差は150.3万円にも達している。 確かに、一部の高級旅館やリゾート施設では、これらの問題を乗り越えて成功している事例もある。しかし、それは例外的な成功に過ぎない。観光業が抱える構造的な問題はむしろ深刻化している。 ・低賃金 ・不安定な雇用 ・過酷な労働条件 ・不明確なキャリアパス これらは一時的な問題ではなく、観光業の持続可能性を脅かす本質的な問題だ。 特に注目すべきは、観光業が「安価な労働力」に依存せざるを得ないという現実だ。政府は観光を「成長戦略の柱」と位置付けているが、その「成長」とは一体何を指すのだろうか。賃金差が150万円以上もある業界を、どうして未来の基幹産業として位置づけることができるのか。この矛盾をどう解消するのかが問われている。
観光業の未来と向き合うとき
これまでの分析から、厳しい現実が浮かび上がっている。訪日観光客は、自然と 「帝国主義的な態度」(強い経済的立場や権力を背景とした支配的・優越的態度) を持つことになる。それは個人の善意や理解では隠せない、観光という行為に内在する 「権力構造」 だ。かつて日本人がアジアで見せた傲慢さ、そして今私たちが直面している状況は、この構造の表裏に過ぎない。 最終的に、迷惑な訪日観光客への対策で最も重要なのは、 「これからも観光業でご飯を食べていくのか」 という問いに真摯に向き合うことだ。
キャリコット美由紀(観光経済ライター)