「認知症の患者の方にお会いした経験がなかったので…」森山未來が『大いなる不在』の役作りで出会った言葉
第48回トロント国際映画祭でワールドプレミアムを飾り、世界で高い評価を得ている近浦啓監督の映画『大いなる不在』。幼い頃に自分と母を捨てた父の「不在」をめぐるサスペンス・ヒューマンドラマです。 【画像】森山未來さん。 主人公・遠山卓(たかし)を演じた森山未來さんにインタビュー。父と30年ぶりに向き合うことになった息子の心情を、どのように表現したのでしょうか。(全2回の前篇。)
「クリエイションとビジネスを表裏一体のものとする」
――近浦啓監督とご一緒されるのは、今作が初めてです。監督との出会いから教えていただけますか。 僕の公式サイトのお問い合わせフォームから出演依頼をいただいたのが最初でした。僕はフリーランスですから、公式サイトからのお問い合わせは別に珍しいことではありません。 ――出演の決め手となったのは、どのようなことだったのでしょうか。 「クリエイションとビジネスを表裏一体のものとする」というインディペンデント映画作家としての(近浦)啓さんのやり方に、興味を持ったことですね。 インディペンデント映画そのものは珍しいものではないですが、予算面や興行で苦労するというケースが多い印象です。そんななか、啓さんには映画作家として、自分が撮りたい映画と予算面や興行を両立させていきたいという強い想いと姿勢があった。本気でその想いを実現しようとしている啓さんにすごく興味を持ちました。それが、本作のオファーを受けようと思ったいちばんの理由です。 ――『大いなる不在』は、複数のテーマや枠組みが折り重なった複雑な物語です。森山さんが演じた卓(たかし)という人物も、わかりやすい共感ポイントのある人物ではありません。最初に脚本を読んだ時、どのように感じましたか? 確かに、時系列が複雑になっているので、物語全体がどういうふうに動いているのかを理解するのは、一読しただけでは難しかったと記憶しています。 何度も読み込むことで理解できるところもありましたが、卓としてどう振る舞うかという部分に関しては、啓さんと話しながら、そして現場に入りながら、少しずつ積み上げていったような感覚があります。 そもそも、脚本を読んで頭の中だけでキャラクターが完成する現場なんて、ひとつもないと思っていて。 映画にしてもドラマにしても、作品は俳優だけで生まれるものではありません。俳優がいて、それを動かす監督の視点や演出があって、さらにその周囲には撮影するカメラマン、美術、照明、そのほかにも大勢の人が関わっている。そうやって初めてひとつの作品が生まれると僕は思っています。 もちろん、演じる側として自分なりのキャラクターは用意していきますが、それはあくまで最初のコミュニケーション手段でしかないので、そこから先はみんなで作り上げていくものと思っています。