「認知症の患者の方にお会いした経験がなかったので…」森山未來が『大いなる不在』の役作りで出会った言葉
5年前に一度会ったきりで、30年間疎遠だった父と突然再会する
――卓という人物像の理解をめぐっては、近浦監督とも時間をかけて議論されたそうですね。 はい。卓というキャラクターを理解するのが難しかったんです。 卓は俳優を生業としている、という設定ではありますが、ひとことで「俳優」と言ってもいろいろいます。どのポジションでとらえたらいいのかを結構話し合いました。 また、「5年前に一度会ったきりで、30年間疎遠だった父と突然再会する」というあまりに極端なシチュエーションについても、どう受け止め、どう振る舞えばいいのか、かなり議論した記憶があります。現場に入る前に自分なりの答えを出しておきたかったので、そこには時間を費やしました。 ――そうやって導き出された「卓」というキャラクターを、森山さんご自身はどのように理解されましたか? 最初に脚本を読んだ時は、かなり淡々としているという印象を受けたんですよね。 30歳を過ぎて自分の生活をある程度確立し、「父親」という存在がないものとして生きてきた自分の前に、突然父親が現れる。しかも重い認知症を患っていて、肉親である自分が面倒をみないといけない。そんな状況にもかかわらず、そこから逃げ出すわけでも、明らかな嫌悪感を剥き出しにするわけでもなく、淡々となすべきことをやる。そんな卓という人間。 でも最初のミーティングで、この映画が啓さんの実体験に着想を得て生まれた物語だと聞きました。もちろん映画なので、脚色も演出もあったとは思います。それでも、長年離れていた父親への想いや距離感などは、啓さんがどういう感覚で生きてきたのかを知ることで、卓という人物をつかむヒントが得られたと思っています。 ――認知症については、身近で接した経験などがあったのでしょうか。 僕はこれまで自分の人生のなかで、認知症患者の方に会ったり、認知症について学んだりした経験がなかったんです。ですから、今作に参加するにあたり、本で読んだりして自分なりに認知症について調べました。 そのなかで、一冊の本の中に書かれていた文に出合い、それが、卓という存在を認識するのにすごく役立ちました。