「味噌汁は加熱するから酵素が死んでしまう」は二重に誤解している…発酵食品が健康にいい本当の理由
発酵食品はなぜ健康にいいのだろうか。日本醸造協会理事の村井裕一郎さんの著書『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』(あさ出版)より解説をお届けする――。 【図表】混乱しやすい「麹」「酵母」「酵素」の違い ■「麹」「酵母」「酵素」の違い 発酵を理解するための重要な概念、「麹」「酵母」「酵素」について解説していきましょう。 「こうじ」「こうぼ」「こうそ」と、ひらがなにすると、すべて一文字違い、そのうえ酵素と酵母は漢字までよく似ているので、混乱する人が多くいらっしゃいます。 発酵のことがよくわからなくなるのも、大きな要因はこの混乱によるものです。 逆に言えば、この3つの違い、とりわけ「酵素」についてわかれば、発酵を原理的に理解したと言っても過言ではありません。 ■発酵に使う微生物は3種類 日本で発酵に使う微生物は3種類で、そのうちの2つが、麹菌を含むカビと「酵母」です。 「酵母」は微生物なのです。そして、麹菌(カビ)が米や麦や豆に生えたものが「麹」です。 麹は発酵食品をつくる原料として使われたり、最近では、塩麹のように麹自体を直接食べることもあります。 「こうじ(麹)」……米や麦や豆などに麹菌が生えた食品原料 「こうぼ(酵母)」……微生物そのもの では、「酵素」とは何でしょうか。 酵素は、物質です。私たちの身体の中で消化や吸収、代謝など、ありとあらゆる活動を促進する働きを担っています。 その種類は数千種類にも及ぶとされています。
■微生物が物質を変化させるときに使う「道具」が「酵素」 酵素は、生き物の体内で生み出されますが、そのすべての働きを紹介すると辞書1冊分程の量が必要になるため、発酵に関わる酵素、その中でも代表的なものだけを取り上げましょう。 代表的な酵素の1つに、「アミラーゼ」があります。 この酵素は、私たちの唾液にも含まれており、口の中に入っているデンプンを糖に変える働きをします。 さて、発酵とは「微生物の活動によって物質が変化すること」とお伝えしてきましたが、微生物が物質を変化させるときに使う「道具」が「酵素」なのです。 ■デンプンを分解して糖にしている アミラーゼがデンプンを糖に変えるという現象を詳しく見ていきましょう。 デンプンは高分子化合物と呼ばれる物質です。高分子とは簡単に言えば、他の物質よりも大きいものを指します。 人間が体内で消化するには大きすぎて取り込めないため、デンプンを小さく壊す必要があります。そのためのペンチやハサミのようなものが、酵素なのです。 つまり、酵素であるアミラーゼは、高分子であるデンプンを分解して糖にし、体内に取り込めるようにしているわけです。 こうして、食べ物を体内に取り込んでいくプロセスを「消化」と言います。 実際にパンやご飯を噛んでいると、だんだんと甘くなってきますが、唾液の中のアミラーゼがリアルタイムで口の中のパンやご飯のデンプンを糖に変えているからです。 人間は高分子のデンプンのままでは味を感じることができません。糖になって初めて甘味を感じることができます。