農的な暮らし(3完)自分の手で収穫した米を食べる「一汁三菜」の幸せ
和食の基本は「一汁三菜」「旬のもの」
竿を出す10日ほど前に、以前住んでいた東京の下町に戻って、ある「下町のおばちゃん」に話を聞く機会があった。そのご婦人は、主婦業の傍ら料理研究家として活躍。得意分野は和食の家庭料理だ。10年以上にわたって海外留学生のホストファミリーをしていた経験があり、和食がユネスコ無形文化遺産に登録される前から、アメリカ、カナダ、イギリスなどから来た食べ盛りの大学生に、和食の素晴らしさを伝授してきた。僕も和食に関しては準外国人的ないわゆる帰国子女なので、こうした方にあらためて和食の基本の「き」を教えてもらう必要があったのだ。 まず、和食の基本は、「一汁二菜(三菜)」である。ご飯・汁物に加えて2品または3品のおかずがある献立が基本パターンだ。そして、「素材の味を生かす」。つまり、あれこれ味付けや臭み消しをする必要がない新鮮な旬の食材を使うこと。そして、「ダシを取る」。市販の顆粒などの「素」を使うのではなく、昆布と削り節から自分で取る手間をかけるだけで、味がガラッと変わるということを教わった。 そういうわけで、「一汁三菜」の主菜は、家の目の前の沢で自分で釣った超新鮮なヤマメ(またはイワナ)の塩焼きしか考えられない。「主菜が焼物だったら、副菜は煮物とか和(あえ)物など、調理法が違うものが良い」とも聞いていたので、自宅の庭で採れるコゴミかフキノトウが最適だと思ったのだが、これはまだ少し時期が早く、原稿の締切に間に合いそうにないのでパス。結局、副菜については、「スーパーで買ってきたものでいいから」と、現実と照らしあわせて妻に丸投げしてしまった。
昔ながらの「天日干し」ならではリスクも
お米のことに話を戻すと、滋賀県東近江市にあるノラノコの田んぼの田植えは、6月20日と遅い。大正時代から戦前にかけて盛んに栽培されていた「朝日」の苗の成長が、現在主流のコシヒカリなどよりも遅いのがおもな理由だ。従って、稲刈りも10月31日と遅かった。その日、4か月ぶりに再訪した田んぼは黄金色に輝いていて、中に入っていって視点をより近づけると、大粒の「朝日」がたわわに実っていた。粒が大きいので、殻がついた籾(もみ)の状態でも本当においしそうに見えた。これを、手鎌で1束ずつ刈り取っていった。