なぜ公立進学校の相模原が名門・横浜を倒す“大番狂わせ”を起こせたのか?
春季県大会は2回戦で佐相監督の母校でもある古豪・法政二高を撃破するも、3回戦で公立の麻溝台に苦杯をなめた。ノーシードで夏の大会へ臨むことが決まったなかで、あえて選手たちに負荷をかけた。練習試合を通じて知り合った、全国の強豪校の監督から聞いた練習方法だと佐相監督が続ける。 「これをやると夏の大会で体に切れが出る、と聞いたんですよ。もちろんきついですし、実際に鍛錬期を終えた直後は疲れがたまって全然ダメでした。ただ、練習が軽めになってくる大会前になると実際に体が切れてきた。放課後だと時間がないので、子どもたちは朝早めに来るとか、昼休みに走って何とかクリアしていた。ただ、僕は走っているのを見ていない。僕が見ていなくても自主的にクリアする。この子たちの強みはそこにある。だから、さまざまな辛いことにも耐えられるんです」 2012年度に保健体育教師として県立相模原に赴任し、野球部を指揮して以来、公式戦で4度目の挑戦にして初めて横浜を撃破した。横浜、東海大相模、桐光学園、慶應を私学の「四天王」と位置づける佐相監督は、偏差値68の県内有数の進学校を公立の雄へ育て上げながら、ぶれることなく「私学に打ち勝つ野球」を標榜してきた。 夏の大会でベスト4へ進出した公立校は、南北に分かれる記念大会を除けば、2004年大会で準優勝した神奈川工業までさかのぼらないと見つからない。チームの、そして神奈川県高校野球の歴史の一部を変えた。しかし、さらに大きな戦いが横浜スタジアムで行われる27日の準決勝で待つ。 横浜以外の「四天王」には、6戦全敗とひとつも勝てていない。そして、決勝戦進出を争う東海大相模には昨年の北神奈川大会準々決勝で、悪夢の逆転サヨナラ負けを喫している。8-6と2点リードで迎えた9回裏に、同点2ランを浴びた末に連打を許して涙をのんだ。 この日の横浜戦でも最終回に同じ状況が同じスコアで訪れかけた。天池が連続四球を与えて無死一、二塁。4番・度会隆輝が放ったレフト前へポトリと落ちそうな打球をダイビングキャッチし、流れを引き戻したキャプテンの坂手裕太遊撃手(3年)は、風間とともに昨年の東海大相模戦にもレギュラーとして出場していた。佐相監督がこう振り返ったことがある。 「去年の悔しさを、何人かの子どもたちはもっている。負け方が本当に悔しかったので。私学の選手たちは体があるから一発長打がある。それはもうしょうがないので、ウチはマシンガン打線でいくしかない。そこで何かを発揮してくれそうな気がするんです」 佐相監督が好む言葉に「束になれ」がある。大金星を導いた竹バット、鍛練期、昨年の悔しさの「三本の矢」の背後には69人を数える部員、6人の女子マネージャー、監督をはじめとする首脳陣、学校関係者、選手の父兄、野球部のOBや卒業生、そして愛称である「県相(けんそう)」を応援する野球ファンが文字通り「束」になって送り続けた熱きエールがあった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)