使いたくなければ、「ノー」と言えばいい…ついに、「Apple Intelligence」で露わになったアップル独自の戦略
情報を「細切れ」にする技術
処理が大きくなってくると、そのときだけクラウドの力を借りるようになっているのだ。 「クラウドのAIにはプライバシー問題がある」という話だったのに、プライバシー重視を公言するアップルがクラウド上でAI処理をするのはどういうことなのだろうか? じつは、このクラウドには、アップルが独自に運営する「Private Cloud Compute」という技術が使われている。 Private Cloud Computeとは、各ユーザーのもつデバイスがAI処理に必要とする演算力を、「そのタイミングでだけ、他の機器とは情報をシェアせずに」使うものである。 デバイス内で情報が匿名化され、処理も分割されたうえでクラウドに送られる。さらに、処理が終わったら、クラウドに送られた「AI処理用の情報」は即座に廃棄される。 すなわち、利用者やデバイスを特定できる情報がほとんどない形で細切れに処理されるため、AI処理にともなうプライベートな情報の収集・蓄積が生じない……というしくみなのだ。 こうすることで、純粋にデバイス内のプロセッサーしか使えない状況に比べて処理負荷が軽くなり、「オンデバイスAIだけ」にこだわるよりも賢い反応ができている可能性がある。なかなかスマートな組み立てといえるだろう。
数年前から自社でAIを開発
Apple Intelligenceに使われているAIは、どこで作られたものなのか? アップルで機械学習とAI戦略を担当するバイスプレジデントであるジョン・ジアナンドレア氏は、「数年前からウェブの情報を厳選して学習をおこなっていた」と話す。その後も、画像から文章まで厳選したコンテンツのライセンスを受け、それらを用いた開発が続けられてきた。 ただ1つのAIモデルでさまざまな用途に対応するのではなく、各種の用途に特化したAIモデルが多数組み込まれたうえで、さらにオンデバイスとしては規模が大きめのAIモデル(約30億パラメータ)が使われている。どれも、アップルが開発したものだ。 すなわち、アップルは「生成AIで他社に遅れをとっている」といわれつづけてきた陰で、自社製品の中で使うAIを自力で開発してきたわけだ。 ジアナンドレア氏は、「ユーザーはAIのパラメータ数を気にしているわけではなく、“使えること”を重視する」という。それは正論だが、AIの性能を測るうえで、パラメータ数や開発手法は重要な情報でもある。 しかし、アップルはこの点について、詳細を明かすつもりはないようだ。