脱炭素運動を楽しめるのは金持ちだけ?ドイツの再エネ転換がなかなか進まない当然の理由
化石炭素への依存は相対的割合も規模も大きいため、何にであれ迅速に置き換えることは不可能だ。これは、グローバルなエネルギーシステムをろくに理解できていないことに起因する、バイアスのかかった個人的な印象ではない。工学と経済の現実に基づく、実際的な結論なのだ。 ● 脱炭素運動を楽しめるのは 余裕のある金持ち諸国だけ 近年の性急な政治公約とは違い、こうした現実は、慎重に考慮された長期的エネルギー供給のあらゆる筋書きが認めてきたものだ。国際エネルギー機関(IEA)が2020年に発表した「公表政策シナリオ」は、化石燃料が世界のエネルギーの総需要量に占める割合は、2019年の80%から、2040年には72%までしか下がらないと見ている。 一方、同機関のこれまでで最も積極的な脱炭素化の筋書きで、大幅に加速したグローバルな脱炭素化を見込んでいる「持続可能な開発シナリオ」でさえ、2040年にも世界の1次エネルギー需要の56%を化石燃料で賄うことを想定している。 これほど大きな割合を、その後のわずか10年でゼロ近くまで削減することなど、ほぼありえない。 富裕な世界は、その富や技術力、高水準の1人当たりの消費量と、それに伴う廃棄物の多さを踏まえると、たしかに、比較的迅速な目覚ましい脱炭素化の措置をいくつか講じることができる。あけすけに言えば、どんな種類のエネルギーであれ、もっと使用を控えてやっていくべきだ。だが、富裕な世界の水準と比べるとごくわずかしかエネルギーを消費しない、50億超の人々の場合には、そうはいかない。 彼らは、増大する人口に食べさせるために豊産物の収量を上げなくてはならず、それには今よりはるかに大量のアンモニア(編集部注/農業用肥料にはアンモニアが不可欠)を必要とするし、重要なインフラを建設するために、ずっと多くの鋼鉄とセメントとプラスティックが要る。 私たちに求められているのは、現代世界を作り上げたエネルギーへの依存を着実に減らすよう、努力し続けることだ。この来るべき転換の詳細の大半はまだわかっていないが、1つだけ変わらずに確実なことがある。すなわちこの転換は、化石炭素の突然の放棄によっても、使用量の急激な削減によってさえもなされることはないし、また、なされえない。むしろ、緩やかな減少という形をとるだろう。
バーツラフ・シュミル/柴田裕之