自称「究極のルクレール」仏の最先端戦車が初披露 「あれ、乗員増えてるけど…」コンセプトはもはや別次元!?
乗員数が3人から4人に増えたワケ
従来の「ルクレール」の乗員は車長、操縦士、砲手の3名でしたが、この「ルクレール・エボリューション」では1名増えた4名となっています。 昨今の戦車は自動装填装置の普及によって砲弾を主砲に装填する装填手を削減しています。「ルクレール」自体、自動装填装置を搭載しているからこそ、前出したように装填手不要の3名構成です。とうぜん、「ルクレール・エボリューション」にも自動装填装置があり、専任の装填手は不要となっています。 では、追加された4人目の乗員の役割は何かというと、、これまでの戦車ではなかった新たな任務、KNDSでは「ミッションオペレーター」と呼ばれていた役割です。これは、無人兵器の操作やミッションシステムからの情報収集を専門に行います。 戦車に限らず、現代の兵器は単独で戦うことはなく、複数の兵器が連携するのが一般的です。それは戦車どうしで連携・共闘するだけでなく、偵察部隊や無人機など異なるユニットからの情報をBMS(戦場管理システム)などから集め、それを分析して戦術的な優位性を確保して戦場全体の戦いを有利にすることも含まれます。 ミッションオペレーターの任務は、無人車両や徘徊ドローンの操作と、それらを使って収集した情報の分析であり、戦闘中は車長を補佐することにあります。従来の車両ではこれら任務は車長が行っていましたが、無人機やBMSの高性能化によって得られる情報そのものが高度化、増大化しつつあり、ミッションオペレーターは車長のオーバーワークを防止するだけでなく、より円滑で効率的な戦闘を実現するために必要とされるようになったと言えるでしょう。 担当者の説明によると、その情報収集能力の高さと、それを戦車単体で高度に運用できる能力は、従来戦車にはない大きな特徴だそうです。
次はもうない? 改良の終点に達したか「究極ルクレール」
メーカーがこのコンセプトモデルを「究極」と呼んだのは、性能が向上したからだけではありません。「ウルティメット・ルクレール」は火力と防御力が向上しただけでなく、徘徊兵器の運用能力と第4の乗員による高度な情報分析能力を備えており、コンセプトモデルではあるものの、現代戦車としては最先端の存在といえるからです。 とはいえ、そのベース車となった「ルクレール」が最初にフランス陸軍へ引き渡されたのは、今から30年以上前の1992年のことであり、アップグレードにも限界があります。この「ウルティメット・ルクレール」でも、4人めの乗員となるミッションオペレーターを追加するために車内スペースのトレードオフが行われており、その席を確保するために、18発の予備弾薬収納スペースが廃止され、車内に搭載できる主砲弾薬数は22発まで減少(従来のルクレールは計40発)しています。 スペース問題だけでなく、「ルクレール」という戦車のフォーマットに則った改良はある意味で限界に達しており、これ以上の能力向上を臨むのであれば、まったく新しい車両を開発するか、そもそも戦車という枠組み自体も見直す必要があったと言えるでしょう。 メーカー担当者も「この戦車の次世代を作る場合は、まったく新しい戦車になります」と説明していました。「究極」という言葉は前述したように物事の最後の極限点という意味を持っていますが、それは同時に成長と今後の終着地ということも指し示しています。 なお、フランスとドイツは、互いの主力戦車である「ルクレール」と「レオパルト2」の後継車両を共同で開発するMGCS(陸上主力戦闘システム)計画を進めていますが、担当者いわくそのスケジュールは2030年代から2040年代へと大幅に遅れており、計画の今後の進展も不透明なものになっております。 MGCS計画のスケジュール後ろ倒しとプロジェクトの成り行きの不透明さを鑑みると、まったく新しい次世代の戦車の登場はしばらく先のことだと思われます。また、その頃には陸上戦闘の様相や使われるテクノロジーも大きく変化していき、今後開発される戦車は我々が知っている今の形とは大きく異なったモノになる可能性すらあります。 そのような背景を考えると、この「ルクレール・エボリューション」は我々がイメージする現代の戦車という枠組みでは、最後にして最高の「究極の戦車」となるのかもしれません。
布留川 司(ルポライター・カメラマン)