【書評】占領期の東京に兄の敵を討つ英国軍人がやってきた:長浦京著『1947』
斉藤 勝久
書名の数字は1947(昭和22)年のことで、敗戦国となった日本が連合国軍総司令部(GHQ)によって支配された占領期の活劇長編小説である。GHQが内部対立し、利権を奪い合う暴力団、そして警察、在日外国人らが入り乱れ、戦争による荒廃と復興が混在した東京が、戦勝国としては存在感の薄い英国の軍人の目を通して描かれている。
逃亡中の戦犯将校を保護していたGHQ
戦時中、ビルマで日本兵によって処刑された兄の敵(かたき)を討つため、主人公の英国陸軍中尉イアンが1947年10月、東京にやってくる。ナチスドイツと戦い、パリ解放に貢献して英雄となったイアン。英国経済界の重鎮で大富豪の父から家督相続の条件として命じられたのは、軍人だった兄を戦地で斬首し、今はB級戦犯の手配を受け逃亡を続けている旧日本陸軍将校ら3人を捕まえ、彼らが処刑された証拠として3人の耳と指を持ち帰ることだった。 英本国だけでなく米国の政財界に人脈を広げる父の後ろ盾で、イアンは英国連絡公館(現在の大使館)やGHQから情報を得て、逃亡者たちの隠れ家を突き止め、追い詰めていく。やがて兄を処刑した日本軍将校が、なんとGHQ高官専用の慰安所で保護されていることが分かってくる。戦犯将校は日米間のある国家機密を入手していたので、それを基にGHQと取引をしていた。 イアンは日本に来てすぐに気付いた。連合国関係者用宿舎にも星条旗が掲げられ、米国最古のホテル名となっている。「ここもアメリカの領土だと宣言されているようだった」。イアンはこんな疑問を抱く。 「(大戦の)勝利は連合国全体のものではなかったのか?いつからアメリカ単独の成果にすり替わってしまったのだろう。」 英国連絡公館員からイアンはこう忠告された。「日本人はアメリカには負けたが、英国に負けたとは微塵(みじん)も感じていない。アメリカ人も本音では日本人と同感だ。彼らは太平洋戦争を戦い、勝者と敗者になった。だが我々英国人は勝者の朋友でしかなく、この土地(日本)では何の力も権限も持たない来訪者としか見なされていない」。だから、アメリカ人のように「勝者の顔」をして偉そうに東京を歩くな、と。