惜敗熊本に千葉サポーターも「ガンバレ熊本!」のエール
少しでも下を向けば、真っ赤に腫れた両方の目から涙がこぼれ落ちる状態だったのだろう。J2ロアッソ熊本のFW巻誠一郎は最後まで胸を張って、試合後の取材エリアでメディアからの質問に答え続けた。 4月9日のレノファ山口戦以来、36日ぶりに立った公式戦のピッチ。15日午後4時に敵地フクダ電子アリーナでキックオフを迎えたジェフ千葉戦で、奮闘かなわず熊本は0対2で苦杯をなめてしまった。 熊本県が未曾有の大地震に見舞われたのは4月14日。同16日未明の本震後には29人の所属選手のうち19人が県外へ脱出。練習もままならなくなった状況から、ようやく再出発の舞台へとこぎつけた。 「結果が物語っていると思いますけど、実際の勝負というのはそんなに甘くなかったなと。それでも、短い準備期間のなかでチームがやってきたことは間違いじゃなかったという思いと、できることはすべてやったという思いの両方が入り混じっています」 巻自身は避難所暮らしとなり、毎日のように他の避難所を回って被災者を励まし、救援物資を県内に届けるためのホットラインを設立し、一緒にサッカーボールを追うことで子どもたちに笑顔を取り戻させた。 胸中に渦巻く万感の思いが、涙腺を決壊へと導こうとしている。しかし、2016年5月15日に涙はふさわしくない。再び力強く前進していくための第一歩だからこそ、上を向きながら必死にこらえ続けた。 試合前のミーティング。清川浩行監督が選手全員へ熱い檄を飛ばした。 「どんなスコアになっても、最後まであきらめない姿勢を貫いて戦おう」 指揮官自身、一抹の不安をぬぐい切れないでいた。選手全員が県内へ戻り、チーム練習が再開されたのは5月2日。実戦形式のそれはわずか45分間しか消化していない。 当然ながら試合勘は著しく鈍っている。フィジカルコンディションも、キャンプ序盤のそれに戻ってしまった。エースのMF清武功暉は後半15分すぎから、両足のいたる部分がつった状態に襲われた。 さらに、インフルエンザ禍がチームを襲う。開幕から全7試合でゴールマウスを守ってきたGK佐藤昭大も罹患し、昨シーズンの出場が3試合だった畑実が約1年ぶりとなる先発に指名された。