『シーズ・ソー・ラヴリー』クレイジー・フォー・ユー、ジョン・カサヴェテスへのラブレター
ショーン・ペンとジョン・カサヴェテス
コール・ポーターの曲「It's De-Lovely」をタイトルの元ネタとする『シーズ・ソー・ラヴリー』は、生前のジョン・カサヴェテスがショーン・ペンを主役に構想していたシナリオだった。この企画はジョン・カサヴェテスの病気が進行したため、ピーター・ボグダノヴィッチが監督を務める方向で話が進む。しかしショーン・ペンは難色を示したという。そこでショーン・ペンはハル・アシュビー監督を提案する。ジョン・カサヴェテスもショーン・ペンの提案に賛成する。しかしジョン・カサヴェテスもハル・アシュビーも亡くなってしまう。ジョン・カサヴェテスが亡くなったあと、ショーン・ペンは遺族から『シーズ・ソー・ラヴリー』を監督する権利を受け取るが、資金が集まらなかったという。 ニック・カサヴェテスは『シーズ・ソー・ラヴリー』を撮ることをプロデュサーたちから提案されたあと、すぐにショーン・ペンに話を持ち掛けている。ショーン・ペンは父親のジョンのことはよく知っていても、息子のニックのことはよく知らなかったという。二人はハル・アシュビーの映画が好きというという共通の趣味で意気投合する。ニック・カサヴェテスはヒロインにパトリシア・アークエットを考えていたが、ショーン・ペンの提案によりモーリーン役はロビン・ライトに決まる(パトリシア・アークエットはスペシャル・サンクスとしてクレジットされている)。ニック・カサヴェテスは、実際の夫婦を撮ることに関して、父親が同じように映画を撮っていたので、まったく支障を感じなかったと語っている。 『ミルドレッド 50歳からのスタートライン』(95)で母親のジーナ・ローランズを撮ることから映画作家としてのキャリアをスタートさせたニック・カサヴェテスは、長編第二作となる本作で自身のルーツ=カサヴェテス・ファミリーと向き合うというプロセスを一旦完了させる。長編デビュー作が母親に捧げられた作品とするならば、第二作は父親に捧げる作品だ。本作以降のニック・カサヴェテスは、ルーツと向き合った最初の二作との距離を測りながら、一人の映画作家として輝かしく巣立っていったように思える。『シーズ・ソー・ラヴリー』に続くデンゼル・ワシントンとの『ジョンQ -最後の決断-』(02)、そしてライアン・ゴズリングとレイチェル・マクアダムスとの『きみに読む物語』(04)は、いずれも傑作だ。特に『きみに読む物語』には、恋人たちの年月を経た姿が描かれるという本作と同じ展開がある。