母国イタリアはザックのW杯出場をどう報じたか
「ザッケローニは、ブラジルでイタリアを待つ」(『レプブリカ』紙)。 日本代表のブラジルW杯アジア最終予選突破は、代表監督アルベルト・ザッケローニの母国イタリアでも、各メディアを通して報道された。日本が本大会出場を決めたオーストラリア戦の行われた4日が、ちょうどイタリア代表のコンフェデレーションズ杯招集メンバー発表と重なったこともあり、2大スポーツ紙である『ガゼッタ・デッロ・スポルト』と『コリエレ・デッロ・スポルト』の扱いは小さかった。 チェコのホームで行われるW杯予選を7日に控えていることと、セリエAの移籍市場動向がすでに活発化していることも、日本に対して紙面が割かれなかった理由として挙げられるだろう。 だが、60歳のイタリア人指揮官に率いられた日本が予選突破第1号となったことを伝える論調は、扱いは小さいながらも好意あふれるものだった。ザッケローニ自身も有力紙『コリエレ・デッラ・セーラ』へ忌憚ない胸の内を語っている。 「イタリアとちがい、日本のW杯出場はまだ当然とはいえない。だからこそ、大きな達成感がある」 W杯優勝4度を誇る母国でのザッケローニへの評価は、日本代表監督に就任した2010年の夏以来、この3年で大きく変わった。 2011年1月のアジアカップ優勝によって、ザッケローニは、ヨーロッパ以外の大陸別王者タイトルを獲得した史上初のイタリア人監督となった。彼のアジア制覇は、近年、各国代表や強豪クラブに指導者を多く輩出する“戦術大国”イタリアにとっても歴史的快挙だった。 1999年にスクデットを獲得したミラン以降、ザッケローニはインテルやユベントスなどビッグクラブの監督職に就いてきた。だが、いずれもシーズンの途中登板ばかりで、一からチーム作りを任されたことはなかった。彼の誠実な人柄や実直なチーム作りのメソッドも、生き馬の目を抜くようなイタリア・サッカー界では、かえって疎んじられた。 一国の代表監督となり、自ら作り上げたチームでタイトルを勝ち取り、W杯出場を決めたザッケローニを今、母国イタリアが称賛する。正当な評価を与えてこなかった伝統国へ、彼は見事なリベンジを果たしたのだ。 ザッケローニの意趣返しにはまだ続きがある。今は「複雑だ」とは言うものの、コンフェデレーションズ杯本番では、心置きなく母国イタリアとの大一番に臨むだろう。 イタリア代表監督プランデッリは、昨年12月の抽選会以降、旧知の友人ザッケローニとの対戦を待ちわびている。「試合の順序は関係ない。経験豊かなアルベルトは、あらゆる手段を講じてくるはずだ」と日本戦へ警戒を怠る気配はない。 EURO2012で準優勝したイタリアは、突破目前のW杯欧州予選や強豪国とのテストマッチを通じて、世代交代に成功しつつある。エースFWバロテッリと司令塔ピルロによる縦への速攻をどう封じるかが、イタリア戦の鍵だ。 「私は日本で誇りを取り戻した。策を練る時間はある」 前述の『コリエレ・デッラ・セーラ』へのインタビュー記事で、ザッケローニはこう語っていた。心の準備はできている。19日、レシフェのスタジアムで、日本代表指揮官ザッケローニは、母国の国歌を歌うつもりはない。 (文責・弓削高志/イタリア在住スポーツライター) 宮崎県出身。地元出版社勤務を経て、2001年に単身イタリアへ。以来、セリエAや欧州チャンピオンズリーグ、イタリア代表を中心に取材。最近興味があるのは、バロテッリやエル・シャーラウィ(いずれもミラン)等、増加するイタリア移民2世選手たちの動向。