温泉旅館一棟借りアイドルライブ 老舗旅館が閑散期に仕掛けた集客策
コロナ禍で実施したイベントで福島との出合い
開催のきっかけは、トロメ~湯の企画者であり、各地で様々なアイドルイベントを手掛けてきたMELTREC(東京・渋谷)代表の小林健太郎氏と「福島」という地の出合いにある。 「新型コロナ禍の下で発令された緊急事態宣言の解除を見越して、アイドルライブで声出しができる環境を追い求め、たどり着いたのが福島県いわき市小名浜にある三崎公園だった」 MELTREC代表の小林氏はこう振り返る。 コロナ禍では会場の入場や声出しなど、様々な制限がかかり、従来通りのイベント実施が難しくなった。こうした中、可能な範囲で以前のライブに近づけることが可能な会場を探す中で、偶然福島という地と出合った。 三崎公園の野外音楽堂を会場としたイベントの第1回は20年8月22~23日に行われた。1日目はアイドルグループのDevil ANTHEM.(デビルアンセム)の主催ライブとMalcolm Mask McLaren(マルコム・マスク・マクラーレン)の定期公演を開催。2日目はイベント制作会社リーディ(東京・渋谷)主催イベントのサポートとして、複数のアイドルグループが出演する「対バン形式」で開催した。 しかし、当時はまだコロナ禍の真っ最中で、声出しは自主規制となり、マスク着用、客同士の過度な接触禁止という制限下での開催となった。 この三崎公園における一連のイベントの制作面をサポートしたのが、いわき市のライブハウス「club SONIC iwaki」を拠点としてライブイベント制作などを担うソニックプロジェクト(福島県いわき市)だった。 三崎公園での野外イベントの初開催から3年が経過し、小林氏の頭の中には、野外ライブイベントに続く次なる展開が浮かんでいた。それが、室内の、それも温泉旅館を借り切ってライブイベントを行うという構想だった。 実は「温泉旅館でライブイベントを開催する」という発想の元には、すでに長年の実績がある「湯会」という音楽イベントがある。 湯会は、12年から横浜市の「綱島ラジウム温泉東京園」で開かれ、同園の閉館に伴い16年からは東京都葛飾区の「東京温泉 古代の湯」で開催され続けているイベントだ。畳敷きの宴会場で気楽に音楽イベントを楽しみながら、温泉に入り放題、飲酒も可能というイベントスタイルの原点がここにある。 小林氏はこの湯会の制作に協力した経験から、「温泉、イベント、アイドルの相性がとてもいい」(小林氏)という印象をそこで得たという。 小林氏はそうした目的に適切な施設がないか、温泉地を抱えるいわき市にオフィスを構えるソニックプロジェクトに相談。福島でのイベントの実施、制作に携わった地元会社の協力で、「オタクに優しい宿」である温泉旅館のこいとと小林氏の出合いが実現。「温泉旅館貸し切りライブ」の実現につながった。 ●数百人の観客に宴会場は耐えられるのか? 23年10月に開催したトロメ~湯の初回は、未知の事柄が多すぎて心配に事欠かなかった。とくに気がかりだったのが会場となる「宴会場の耐久性」と「周辺への音漏れ」だ。 まず、宴会場の耐久性について。トロメ~湯に出演したアイドルグループは、いずれも「ステレオタイプなアイドルライブ」からは想像しにくい、熱狂的なフロアになることが多い。筆者が取材した24年4月開催の第2回トロメ~湯でも、ファンが一斉に飛び跳ねたり、大広間の中央で円陣を組んだり、アイドルがステージから降りてきてその周りをファンが取り囲んだりするなど、かなり激しい光景が見られた。 100人以上の観客が2階の宴会場で飛び跳ねても建物が耐えられるのか、旅館経営者としては気になるところだ。耐震性に関して宗像氏は、開催を決める際に建築会社に問い合わせたという。得られた回答は、「鉄筋コンクリート製のため、数百人が跳んだり、跳ねたりしても問題なし」というお墨付きを得られた。 実際、筆者はライブ中に同じフロアを体感してきたが、床が大きく揺れる、建築物がきしむなどの不安要素はほぼなかった。