視聴率急落で「死の谷」にはまったテレビ局の苦悩 激減するテレビCM収入をどう補う?
TVerの薄井大郎取締役は、「以前までTVerで番組を配信するのを控える動きもあったが、サービスの急拡大に伴い(TVerに対する)業界全体からの期待の高まりを非常に感じる」と手応えを語る。そのうえで、「今のユーザー数で良しとも思っておらず、昔のテレビのように毎日見られるような国民的なサービスにしたい」と意気込む。 TVerなどの配信サービス経由の収入拡大は、視聴率低下にあえぐテレビ局にとってはまさに最重要課題。TBSも番組の視聴率だけでなく、その後の配信収入などまで含めたコンテンツのLTV(ライフ・タイム・バリュー)を重視する戦略を打ち出している。
ただ、TVerなどの配信広告費は拡大しているとはいえ、テレビ広告費の急速な縮小にはまったく追いついていないのが実情だ。 ある放送業界関係者によれば、TVerの収入がテレビ広告の収入減を補えるようになるまでの期間を、テレビ局や総務省関係者らは「死の谷」と呼んでいる。一般的には、ベンチャーなどが事業を黒字転換させるまでの期間を指す言葉だが、開局から半世紀以上が経つテレビ局も目下、その“谷”にはまってしまっているわけだ。
TVerの収入増に向けては、広告主に対する認知度拡大が不可欠となる。「クライアント(広告主)側は4マス(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)担当とデジタル担当で分かれていて、その中間のTVerをどちらが担当するか、明確になっていない場合が多い。”ポテンヒット”のようになってしまっている」(TVerの古田和俊執行役員)。 ■視聴者受けする番組に違いも テレビ局にとって悩ましいのは、「テレビでの高視聴率番組=TVerでの人気番組」という方程式が成り立つわけではない、ということだ。
例えばTVerの視聴数ランキングを見ると、テレビ視聴率ではキー局最下位のフジテレビの番組が上位に並ぶことも多い。一方で視聴率王のテレビ朝日の作品はTVerでは必ずしも上位には並んでおらず、あるテレビ朝日ホールディングスの社員は「われわれはTVerでは出遅れている状況だ」と打ち明ける。 TVerなどの配信サービスはスマホで見られることが多く、テレビで人気の根強い家族向けの番組よりも、大人向けのドラマなどが多く再生される傾向にある。そのため最近では、深夜枠で配信に強いドラマコンテンツを投入することで、その後のTVer収入の拡大につなげる戦略をとるテレビ局が増えている。