視聴率急落で「死の谷」にはまったテレビ局の苦悩 激減するテレビCM収入をどう補う?
しかし、あるキー局の社員は「テレ朝の視聴率が高いのは高齢者の視聴割合が高いから。在宅時間の長い高齢者はテレビの視聴時間も長い」と指摘する。 ■現役世代に強い日テレの底力 ビデオリサーチが2020年3月から開始した新視聴率調査によって、今では視聴者の人数だけでなく、性別や年齢層も詳細に把握できるようになった。 そうした中、長らく視聴率王であった日本テレビは今年4月の番組改編から、13~49歳の男女の視聴率を「コアターゲット」視聴率として重視する戦略(コアMAX戦略)を明確に打ち出している。
日本テレビの公表資料によると、個人全体(全日)の視聴率ではテレビ朝日が1位、日本テレビは2位だが、コアターゲット視聴率では日本テレビが3冠で、テレビ朝日はいずれの時間帯でも4位(2023年実績)。コアターゲットの全日視聴率では両社で倍以上の差がついており、テレビ朝日の視聴者層が高齢者に偏っていることが読み取れる。 広告主としては当然、自社の商品・サービスのターゲット層の視聴率が高い枠に、重点的にテレビCMを出稿したいという思惑が働く。購買意欲の高い現役世代の若者にリーチしたい広告主は多く、コアターゲット視聴率はテレビCMの単価にも影響する。
日本テレビはコアターゲット視聴率で、テレビ朝日を含めた他のキー局と大差を付けている。個人全体の視聴率では2位に後退した日本テレビが、今なお放送収入で頭一つ抜けているのには、こうした現役世代への強さも関係している。 前出とは別のキー局社員は、各局の視聴率の違いを広告主に説明する際、ホテル経営を比喩に用いるようにしているという。 「個人全体の視聴率がホテルの部屋数だとすれば、コアターゲット視聴率は部屋の価格。テレビ朝日は部屋数が多く、安いホテルだとすると、日テレは部屋数が多く、価格も高いホテルだ」
言うまでもなく、個人全体、コアターゲットいずれの視聴率も高いことが理想だが、視聴者の数だけでなく中身の違いも、テレビ局の収入を左右する時代へと変わりつつあるようだ。 ■テレビ以外の場での競争が熾烈化 もっとも、テレビ離れ自体に歯止めを掛けられない中、王者の日本テレビでも広告収入の減少は深刻だ。そこで今、テレビ局の間では、“テレビ以外の場”での競争が熱を帯びてきている。 それが民放キー局・準キー局などが出資する配信サービス「TVer」だ。2022年から民放5系列で地上波番組との同時配信を開始し、足元では急速にユーザー数を伸ばしている。今年3月の月間動画再生数は4.5億回を突破し、過去最高を更新した。