映画大好きオバマ元大統領、オスカー的中率が高い理由【アカデミー賞2024】
ミシェル夫人との最初のデートで見た『ドゥ・ザ・ライト・シング』('89)は、人種間の諍いを描いた衝撃作であり、アフリカ系アメリカ人であるスパイク・リー監督は差別される側としての怒りを投影させている。現在のハリウッドではブラック・アクターの地位はかなり向上(昔に比べれば、だが)しているようだ。しかし、オバマ元大統領がお気に入りリストに、必ずいわゆるブラック・ムービーを入れているのは、彼のアイデンティティの本質を重ねていると同時に、世界中に「まだまだアフリカ系アメリカ人の社会的立場は弱い」とリマインドする目的があるのだろう。
2018年に公表した最初のリストがアルファベット順なのは先述したが、彼としてはきっと『ブラック・パンサー』を1位に推したかったのかもしれない。この年は、『ビールストリートの恋人たち』や『ブラック・クランズマン』、『ブラインドスポッティング』『行き止まりの世界に生まれて』がリスト入りしている。 翌2019年には『黒い司法 0%からの奇跡』と『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』がリスト入り。2020年には『マ・レイニーのブラック・ボトム』をベスト1に選び、『ソウルフル・ワールド』がリスト入り。 2021年にはアカデミー賞受賞作『サマー・オブ・ソウル』とレベッカ・ホールがアフリカ系のご先祖様をモデルにして監督デビューした『Passing』、ダニエル・カルーヤの演技が高く評価された『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』、デンゼル・ワシントンが主演した『マクベス』がリスト入り。 そして2022年は『ティル』。どの物語もアフリカ系のキャラクターが主役であり、彼らがたどるさまざまな人生模様や社会から受ける抑圧を描いた物語だけでなく、アフリカ系アメリカ人が作ったカルチャーや生きる喜びが綴られている。
外国映画もしっかりマーク
8年間も大統領を務め、世界のリーダーとして活躍しただけあって、オバマ元大統領がいわゆる外国映画を鑑賞しているのはリストからも一目瞭然だ。 『未来を乗り換えた男』(’18)や『戦争と女の顔』(’19)、『バクラウ 地図から消された村』(’20)といった戦争が生む悲劇がリスト入りしたのは、グローバルな立場で世界平和を求めてきた彼らしい選択と言える。 またアカデミー賞外国語映画賞を受賞した是枝監督の『万引き家族』(’18)や濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(’21)と『偶然の想像』(’21)がリスト入りしているのは、日本人としては嬉しい限り。 アカデミー賞作品賞受賞作『パラサイト/半地下の家族』(’19)や外国語映画賞候補となった『コレクティブ 国家の嘘』(’20)はもちろんとして、ジャ・ジャンクー監督の『帰れない二人』(’18)やノルウェー映画『わたしは最悪。』(’22)のような、どちらかというと映画評論家好みのアートハウス的作品をピックアップしているのには恐れ入ってしまう。