自衛隊「職務中の死亡事故」はなぜ止まらないのか?4月のヘリ墜落で8人死亡、背後に潜む人災の実態とは
改善ゼロの国産ソノブイ
海自がソノブイを使用しない理由は、国産のソノブイが米国製の何倍も高価でありながら、性能が劣っているからだ。その低性能のソノブイは、海自が誇る哨戒機P-1でも使用されている。10年以上前に聞いた話では、海自が米国主催の演習「リムパック」に参加する際には、国産のソノブイでは太刀打ちできないため、米国製のものを使っている。 国産ソノブイにはパッシブとアクティブの2種類があり、 ・沖電気 ・NEC がそれぞれ役割を分担している。しかし、輸出は行っておらず、国内市場は小さいため競争がない。一般的な国であれば、一社で完結する仕事を二社で分け合っているため、開発研究費は半分になり、同じ研究が重複して行われている。 さらに、規模が小さいため、両社とも音響工学の博士号を持つ社員がいないというのは、欧米のメーカーでは考えられないことだ。ちなみに、P-1用のソノブイの解析装置は国産では十分な性能が出せず、外国製をライセンス導入している。 両社はソナーも製造しているが、性能はやはり低い。海自のイージス艦は、イージスシステムの一部として米国製のソナーを使用しており、基本設計は古いものの、最新型の国産ソナーでは太刀打ちできない。イージス艦のソナーで探知できる潜水艦が、国産ソナーを搭載した汎用(はんよう)護衛艦では探知できないことが多い。米国製は素子などに最新型を使用しているが、ソフトの面で大きく劣っている。 米海軍が使用するソノブイは随時改良が加えられているが、海自が使用している国産ソノブイは長年改良されていない。これは、顧客が海自だけであり、同じ市場を二社で分け合っているため、開発費が投じられないからだ。
止まらない税金の浪費
両社を維持するために無駄な調達も行われている。ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」級の2隻には、不要なNEC製のバウソナーが装備された。初めの計画では、艦隊の旗艦として艦隊の中央に位置するいずも級にはバウソナーは必要ないとされていたが、 「大人の事情」 で1基100億円以上のソナーが装備されることになった。このソナーは表面がゴムで覆われており、数年おきに取り換える必要があるため、多額の費用がかかる。また、不要なソナー要員も必要となる。イージス艦ですら充足率が6割程度にすぎないのに、不要なソナー要員を配備しなければならない。これほどまでに売り上げを増やさなければならないのなら、両社の事業統合を行うべきだろう。 しかし、防衛省は両社の事業を統合して能力や生産性を高めようとはしない。筆者(清谷信一、防衛ジャーナリスト)は2024年、木原稔防衛大臣にこの問題をただしたが、 「事業統合は民間の問題」 との認識を示した。唯一のユーザーである自衛隊が調達側としての意識を欠いているため、将来も低性能で高価格のソノブイやソナーを調達し続けて税金を浪費しても構わないと公言しているのと同じだ。もちろん、ソノブイの問題が直接的に事故の原因とはいわないが、原因をさかのぼれば関係がないともいえない。「川下」の問題だけを見れば、同様の事故は今後も起こるだろう。 2023年6月、岐阜市の陸上自衛隊の射撃場で、実弾射撃の訓練中に隊員が小銃で銃撃され、ふたりが死亡、ひとりが重傷を負った事件が発生した。犯人の19歳の元自衛官候補生は、弾薬を奪おうと考え小銃を発射したとして、強盗殺人などの罪で起訴されている。 2024年4月、陸自は内部に設置した調査委員会の報告書を公表した。これによると、元自衛官候補生が所属していた部隊では、規則に基づいて適切な服務指導が行われていたが、 「武器を持つことの自覚と心構え」 が元候補生には養成されていなかったとされている。