スキャンダルの業火のなかから広末涼子がよみがえる 中森明夫
ああ、と思った。彼女は機転が利かないのだ。吉川ひなのとは違う。こんな冗談のたとえ話でも絶対に許さない。自分がワン・アンド・オンリーの存在だということを、まったく疑っていない。大真面目に、まっすぐに〝特別なスター・広末涼子〟であることを信じきっている。その疑いを知らない自信満々のまっすぐな瞳に、私はどこかざわざわとした不吉なものを感じていた。 思えば、それがアイドル広末涼子の人気のピークの頃だった。18歳になって、早稲田大学への自己推薦入学を発表する。翌年2月、全国の大学受験生たちがヒイヒイ言ってる頃、日本武道館をはじめとする全国ツアーで〝自己推薦〟早大生・広末涼子は唄い、踊っていた。ガリ勉くんたちをあざ笑うかのように。同世代の受験生たちを完全に敵に廻してしまったのだ。 大学への初登校の日、早稲田のミーハー学生どもは広末に群がって集団パニックを引き起こす(皮肉にも、彼女を有名にしたドコモのCMの携帯電話で「広末、来てるよ~」と連絡を取り合いながら)。結局、ろくに登校することも叶(かな)わず、大学を中退したのである。 誰が悪かったのか? そう、時代が悪かったのだ。これが吉永小百合の頃なら、早稲田の学生たちも遠巻きにサユリ様を見守っていた。九州から上京した同世代の青年は、学食で吉永が食べ残したパンの耳をこっそり持ち帰ろうかと思ったという(タモリである!)。写真週刊誌もワイドショーもスマホもない。そんなメディア環境が、清純派女優・吉永小百合の神話を生んだ。対する広末涼子は、清純派アイドルという幻想がもはや成立不可能な過酷な時代を生きなければならなかった。 かつて私は「加護亜依は勝新太郎である」と書いた。勝新は天才役者だが、私生活はめちゃめちゃで、役者馬鹿だ。同じく加護ちゃんもスキャンダルまみれだが、プリティーの天才で、プリティー馬鹿!と名づけた。 加護亜依が勝新太郎なら、広末涼子は横山やすしである。見かけはプリティーだが、中身は無頼派アイドルなのだ。2001年、泥酔した広末がタクシーに無賃乗車したというスキャンダルが報じられた。そういえば、横山やすしもタクシーで事件を起こしている!?