スキャンダルの業火のなかから広末涼子がよみがえる 中森明夫
ふと見ると、テーブルの片隅で15歳の広末涼子が黙々とスブタ定食を食べていた!? 2年後、98年6月に彼女と再会する。17歳の広末涼子は、国民的アイドルになっていた。CMにドラマに歌番組に出ずっぱりだ。〝アイドル冬の時代〟と呼ばれたその頃、たった一人、広末だけが光り輝いていた。 映画『20世紀ノスタルジア』の主演に15歳の彼女は大抜擢(ばってき)された。ところが、広末がブレークしすぎて時間が取れず、撮影が一年半も中断する。完成した映画では、途中で成長して彼女の顔が変わっていた!? 97年7月公開、広末が舞台挨拶に訪れたテアトル新宿の前には熱狂的なファン数千人が殺到する。靖国通りに人群れがあふれ交通を遮断、新宿警察が緊急出動して流血騒ぎとなるパニック状態に!? 広末人気、恐るべし。 代官山にある古い洋館のハウススタジオだった。2年ぶりの篠山紀信による撮影である。現れた17歳の広末涼子は、きらきらしていた。異様なオーラだ。篠山はノリにノってシャッターを切る。「こういう時は全部がいい写真になる!」と、あっという間に撮影を終えた。洋館の応接間のソファで篠山は昼寝する。広末はテーブルに用意されたパンを食べていた。隣席の私は、その様を見つめている。トップアイドルが頂点にある瞬間にのみ発するその輝きを間近に見て、めまいを覚えたのだ。 「どうして、そんなに輝いてるの?」と、ついにクサいことを言ってしまう。すると広末は応えた。「ん? 革命があったんだよね。あたしの中で、いっぱいいっぱい革命があったんだ」と自信満々の笑顔で。革命!「広末涼子のその〝革命〟を全面支持する!!」と思わず私は赤旗を振り廻したくなったのだ。 ◇「清純派アイドル」が成立不可能な時代 広末と同世代のトップアイドル・吉川ひなのと対談した時のことを思い出す。「君は、ひなの星から舞い降りた、ひなの星人だ!」と私が称(たた)えると「うん、ひなの星ではね……」と彼女は面白いことをいっぱい言った。同じことを広末にも告げたのだ。この世の女の子の美しさではない、ヒロスエ星からやって来たヒロスエ星人なのだ、と。「えっ?」とパンを食べる手を止めて、彼女の表情が急に曇る。「ヒロスエ星には、ヒロスエ星人がいっぱいいるんですか?」と訊(き)いた。私は「うん、そう」と適当に答える。すると「いっぱいいたら、ダメじゃないですかーっ!」とキレて、マジ顔の広末がカンカンに怒り出したのだ。