吉永みち子73歳「心穏やかに暮らすためには、《筋トレ》ならぬ《心トレ》が必要。こう受け止めれば救われると、期待しすぎを戒めて」
◆長生きしたい?したくない? 吉永 自然災害や戦争は若い人の人生も奪う。無念さは私たちの数百倍でしょうね。それを思うと、私はもう十分に生きたな、と思うことがあるの。 残間 「もう十分」って、いつも言ってるわね(笑)。30代から聞いてる。 吉永 だって生きるって大変なことだもん。とにかく私はずっと手一杯だった。若い頃は食べていくだけで手一杯で、その後は子育て、今は老いや死を受け止めることに手一杯。手一杯の方向性が違うから、十分に生きたというのは、生きてるだけで十分じゃないかという意味もある。 老いると家族とか仕事とかから解放されていく心地よさもあるから、自分中心に生きる初体験でもあるし。一番楽しい時期だと言えなくもない。ま、要は開き直ったわけだよね。(笑) 残間 私は長生きしたい。小さい頃から病弱だったから生きることに対する執着が強いのかもしれないけれど、なんだかまだすべきことが残っているような気がするの。 吉永 会社を運営してたら簡単に消えることはできないもんね。私なんかは今日から消えますってことで済んじゃうけど。責任感の違いかな? 残間 58歳の時に立ち上げた大人世代向けのネットワーク、「clubwillbe」でセミナーを企画したり、合唱団活動を引率したりしているのだけど、責任感が生き甲斐に通じている、みたいなカッコいいことではなくて、メンバーの人たちから元気をいただいている感じね。それはとてもありがたいことだと思ってるの。
◆子どもにも友だちにも期待しすぎない 吉永 ところで一人暮らしには慣れた? 残間 息子が自立して10年だから、「慣れた」を超えて、もう誰とも暮らせないという域に達してる。 吉永 私は一人暮らし歴22年になるけど、24時間フリータイムって最高よね。 残間 「年を重ねてからの一人暮らしは、夕方まで明るい部屋に限る」と聞いて、最初は西向きの部屋に暮らしてたの。でも、沈むのよ夕陽が。気持ちも沈んじゃって(笑)。それで東向きの部屋に引っ越したの。快適よ。 吉永 時々、「一人暮らしといっても、吉永さんにはお子さんがいるから、老後は安泰ですね」とか言われるんだけど、そういうものでもないな。 残間 息子なんて当てにするだけ無駄よね。 吉永 私の実の子である次男はすさまじい反抗期があって、口はきいてくれないわ、やんちゃして警察のお世話になるわで大変だった。40代になった今は、飲食業界で働いて自力で生きているから、それだけで上出来だと本気で思うよ。 残間 うちの息子は30代なんだけど、連絡してくるのは猫の世話をしてほしい時ぐらい。 吉永 うちも一緒。出張中に飼い猫の世話をよろしく、みたいなLINEがくる。猫はかわいいから行くけど、ある時、猫が下痢してるよって報告したら出張を切り上げて飛んで帰って来た。私が病気で入院しても見舞いに来なかったくせに。(笑) 残間 うちの息子もドライ。もっとも、はなから期待してないからいいんだけど。 吉永 友達だってそう。元気なうちは仲良くできても、お互いに体が動かなくなってからは期待しちゃだめよね。そうやって戒めておかないと、どこかで期待してる自分もいるから。心穏やかに暮らすためには、「筋トレ」ならぬ「心トレ」が必要なのよ。「こうなったらこう受け止めれば救われる」みたいな、いわば自己防衛策なんだけど。 (構成=丸山あかね、撮影=藤澤靖子)
残間里江子,吉永みち子