ダブル被災の能登、文化財を守り続けてきた男性「億単位で個人で払える額では…」復旧費は個人負担
能登半島地震で被災した文化財の復旧がなかなか進まない。民間が所有する物件が多く、個人に復旧費の負担が重くのしかかる上に、9月の能登豪雨で被害が一層深刻になったためだ。震災からまもなく11か月。文化庁は、所有者の負担を軽減させて復旧が少しでも進むよう、新たに復旧補助費の上乗せの検討を始めた。(デジタル編集部 石原宗明) 【写真】能登半島、9月の記録的豪雨
■復旧にかかる費用は1億円以上
「元の姿に戻すことは諦めなければならないかもしれない」。国重要文化財「上時国家(かみときくにけ)住宅」(石川県輪島市)を所有する時国健太郎さん(74)(金沢市)は、裏山から流れ込んだ土砂で埋まった住宅を見て、そうため息をついた。
この住宅は、壇ノ浦の戦いの後に能登に流された平時忠の子孫とされる「上時国家」が1857年頃までに建てた家だという。豪壮な入母屋造(いりもやづくり)の主屋など3棟が国重文、庭園も国名勝に指定され、奥能登地域の観光スポットの一つだった。
元日の震災で、3棟のうち、主屋と米蔵が損壊。前年12月の大雪で庭の木が倒れた被害もあり、解体修理など住宅全体の復旧費は約40億円と見積もられている。国から最大85%の復旧補助費などもあるが、時国さんの負担は1億円以上になる見込みだという。
■先祖の遺産伝えたいが…
追い打ちをかけるように、9月の豪雨で、庭園に土砂が流れ込み、部分修理で済むはずだった納屋の解体も検討しなければならない事態となった。土砂の除去作業は進まず、住宅内では、2万点以上の古文書が埋もれたままだ。復旧費はさらにかかるとみられている。
上時国家25代当主にあたる時国さんは、今はこの家に住んではいないが、正月には親族でこの家に集まるのが恒例行事だった。「先祖が守り続けてきた遺産を後世にも伝えたいが、負担する復旧費はとても個人で払える金額ではない。復旧したとしても、元の材料を使えるか分からず、指定が取り消されるのではないかと危惧している」と話す。一刻も早い復興を望むが、「所得にあわせた負担に変えることを検討してほしい」と訴える。