長崎ちゃんぽん「リンガーハット」が値上げで客離れ…フードコート依存からロードサイド型への転換に光はあるのか
フードコートの独特な消費者意識に支えられていた
フードコートに出店する最大のメリットは、広告宣伝費をかけずに集客できることだ。 また、客層は家族連れが圧倒的多数だという特徴もある。地域SNSアプリを運営するPIAZZAの大型商業施設の調査(「大型商業施設利用に関する意識調査」)によると、ショッピングモールに訪れる顧客のうち3名以上のグループ来店は52%に及んでいる。 家族がフードコートで食事をする場合、各人が好きな料理を注文することがほとんどだ。それをシェアするのが楽しみの一つだとも言える。このような飲食形態において、長崎ちゃんぽんは絶妙なポジションを獲得していた。 仮に誰かがラーメンを食べるとすると、他の人は同じカテゴリーを避けたがる。しかし、ラーメンが食べたかった場合、同じ麺類のうどんやスパゲッティが選択肢に入るだろうか。これらはラーメンとは別の食べ物と認識されているため、選択肢に入りづらいはずだ。ところが、ご当地グルメである長崎ちゃんぽんはラーメンと近いもののカテゴリーには若干のズレがあり、うどんやスパゲッティほど離れていないと感じるはずだ。 マーケティングには「純粋想起」という言葉がある。これは、消費者の頭の中にはっきりと浮かぶブランドのことだ。フードコートの場合、この純粋想起が起こることはどのブランドにおいてもほとんどない。消費者は目的を持って来店するのではなく、買い物途中にフードコートに立ち寄り、店舗を比較しながら絞り込むためだ。 リンガーハットは、「長崎ちゃんぽんという選択肢があったな」という消費行動に支えられていたと考えられる。これを「助成想起」という。 つまり、リンガーハットは純粋想起させる強力なブランドを構築して集客していたというよりも、ポジショニングをもとにした助成想起に支えられていた側面が強い。
野菜と小麦粉の100%国産使用は毒か薬か
フードコートは、他店と価格を比較されるというデメリットがある。長崎ちゃんぽんは780円だ。丸亀製麺のかけうどんは390円。トッピングで野菜のかき揚げ180円を加えても570円だ。 トッピングを自由に選べることや、天かす・青ねぎを無料で入れられることを考慮すると、丸亀製麺のお得感が強い。こうなると、先ほどのポジショニングによる優位性は消失し、コストパフォーマンスが大きなウエイトを占めるようになる。 リンガーハットが値下げをするのは難しいだろう。この会社は野菜と麺・餃子の小麦粉はすべて国産を採用し、契約している農家を月別に紹介するなど徹底的に素材にこだわっているからだ。 値下げができずフードコードで集客に苦戦すると、ロードサイドが主戦場になる可能性が高い。しかし、ロードサイドは消費者の比較検討要素が少なく、移動する間の一瞬で長崎ちゃんぽんを食べる理由を想起させなければならない。ラーメンほど食べ物としての認知度が高くないため、これは簡単ではない。 テレビCMや近隣にチラシなどを配布し、消費者にリンガーハットというブランドの純粋想起を促す宣伝活動が必要だ。そうなれば広告費がかさんで利益を圧迫するだろう。 業績回復への険しい道のりを、リンガーハットはどうひっくり返していくのだろうか。 取材・文/不破聡