コロナ禍の中、韓国総選挙で与党圧勝 対日政策は強硬になる?
支持率低迷を一変させた新型コロナ
こうした状況を一変させたのは、新型コロナウイルスの感染拡大でした。1月初頭に中国・武漢市での「新型肺炎」感染事例が世界保健機関(WHO)に公表され、中国の感染者数が圧倒的に多かったのは当然ですが、その次に感染拡大が目立ったのは韓国でした。2月26日に累計の感染者数が1000人を超えましたが、その頃は2日でほぼ倍増する感染爆発の状態でした。 しかし、韓国政府は徹底的な対策を講じ、新型コロナウイルスの検査(PCR検査)を大量に実施し、症状ごとに感染者への対応を分けるなどの方法で感染拡大の抑止に努めました。その結果、3月中旬にはそれまでの感染者数「1日4桁」から「3桁」にまで下がりました。韓国が徹底した措置をとれたのは、2015年に中東呼吸器症候群(MERS)の感染が拡大して38人が亡くなった苦い経験があったからだといわれています。
韓国政府の対策は有効であることが世界に知られるようになり、日本でも注目されました。文大統領は国際協力に力を入れ、2月下旬以降、米中仏など20か国以上の首脳と電話協議を重ね、G20の臨時首脳会議を提案し、実現するのに貢献しました。 新型コロナウイルス感染症が収束に至らない中での総選挙には、感染拡大のリスクもあったはずですが、それでも韓国政府が実施に踏み切ったのは、韓国民自身が感染対策に自信を持ったからでした。たとえば、当初は大規模な検査は感染者数の拡大につながるという懸念もありましたが、対策が進むにつれて間違ってなかったという思いが強くなったといいます。また各国が高く評価したことは韓国民を大いに勇気づけました。
元徴用工問題と輸出管理問題の行方
今回の選挙で大勝利を収めた文大統領は、国民の支持を背景に、再び対日強硬姿勢をとるのではないかと懸念する向きがあります。 しかし、今後のことは総選挙の結果だけで判断することはできません。 現在の日韓関係において最大の懸案は、元徴用工問題と輸出管理問題です。元徴用工の問題について、文政権は韓国最高裁の判決を尊重するとして解決のための政治的責任を果たそうとしていません。また、韓国国会の文喜相(ムン・ヒサン)議長が昨年、韓国国会に提出した解決案は新しい議員の任期が始まる5月末を前に廃案になるか否決されることが必至だといわれています。つまり、韓国側から解決への努力が行われることは期待できない状況です。 一方、日本政府は韓国政府に対して国際法の尊重を求め、1965年に日韓基本条約とともに結ばれた請求権協定に従って解決すべきだという立場です。日本側の姿勢は今後も変り得ないでしょう。 しかし半導体材料などの輸出管理については、韓国側は甘かった輸出管理制度を改めるなど解決のための努力を見せており、日本側としてもそれに応じるべきです。輸出管理の厳格化は両国間の貿易への障壁になっており、一刻も早く解決すべきだと考えます。 安倍首相は、新型コロナウイルスの感染対策に関し、いったん閣議決定した補正予算案を変更して、国民に一律10万円の給付を決定するなど驚くほど柔軟な姿勢をみせました。今後、これまでのわだかまりをさておいて文大統領と協力し合えば、両国のみならず、世界の安定のために積極的な貢献をできるでしょう。
------------------------------------ ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹