安楽死合法の国で―― 余命3か月の母を支える家族 激痛に耐え、法制化を求めた男性
それから3か月後の2021年10月、カロリーナさんは家族に見守られるなか、安らかに息を引き取った。亡くなる直前まで、ほとんど痛みを感じることなく、家族が手を取ると、握り返して応えてくれたという。
母の死を受け止め 前へ進もうとする家族
その年のクリスマス前、私はカロリーナさんの家族のもとを訪ねた。部屋の至るところにカロリーナさんと家族の思い出がつまった写真が飾られていた。 長女のマリアさんは、カロリーナさんがホスピスに入っていた5か月間、家族の中でも最も長い時間をともに過ごした。 「母は最期まで病と闘って亡くなりました。安楽死の法制化なんて信じられません。誰かの命を終わらせる考え方は、私にとっては野蛮でしかありません」
末っ子のアナさんとパルマさんも、母親の死を少しずつ受け止め、一歩ずつ前へ進もうとしている。2人はカロリーナさんの写真が置かれたピアノを弾いて、母親が好きだった曲を演奏していた。
6人の子どもたちが口を揃えて「家族の中で一番陽気な人」と評するドミンゴさん。妻が残してくれた子どもたちに目一杯の愛情を注ぎ、温かく見守り続けている。手に取った自身の結婚式の写真をじっと見つめて、目を潤ませながらつぶやいた。 「妻が亡くなったことは本当に辛い経験でしたが、ホスピスという最高の場所で旅立てたことは幸せでした。妻は今も私たち家族とともにいます。命に必ず終わりはきます。だから、自分たちで終わらせる安楽死なんて、絶対にしてはいけません」
取材を終えて
車椅子に乗ったカロリーナさんが、初めて待合室に姿を見せてくれた時の光景を、私は今でも鮮明に覚えている。余命3か月の状態であったため、顔色は悪く、左目を十分に開けることができず、私の胸は締め付けられた。 しかし、両脇に座った息子と娘にぎゅっと手を握られたカロリーナさんは、穏やかで幸せに包まれた表情を見せている。それを見た時、私はこの家族の絆の深さを痛切に思った。 「素敵な家族ですね」と声をかけた私に対し、カロリーナさんは「ええ」とにこやかに頷いてくれた。 安楽死が合法化されたスペインで、その選択をせず、最後まで生を全うしたカロリーナさん。それを可能にしたホスピスでの最期の日々が、長女のマリアさんのその後の人生を変えることになった。