安楽死合法の国で―― 余命3か月の母を支える家族 激痛に耐え、法制化を求めた男性
「家族の魂」だった母 ホスピスで穏やかな最期の時
私はラファエルさんを取材後、首都マドリードにあるホスピスに向かった。脳腫瘍で余命3か月と宣告されたカロリーナ・オルべ・アラルモさん(54)は、安楽死を選択せずに最後まで生を全うしようとしていた。 脳の損傷で声は出せるが、会話はできないカロリーナさんに、長女のマリアさん(24)が優しく問いかけた。 マリア:「この病院に満足している?」 カロリーナ:「ええ」 マリア:「母が穏やかな気持ちでいるのが伝わってきます。本当によくケアをしてもらっています」
夫と6人の子どもに恵まれたカロリーナさん。常に家族優先で、愛情深く、子どもたち一人ひとりの個性を尊重してくれる母親だという。夫のドミンゴさん(53)は、カロリーナさんについて「家族の魂」と表現した。 脳腫瘍の手術後、がんは全身に転移し、回復が望めなくなったため、緩和ケアを受けられるホスピスに入所した。家族全員が24時間体制で交替しながら、必ずカロリーナさんの側に付き添うようにしている。 ホスピスでは、痛みを緩和して患者が最期の時を穏やかに過ごすこと、そして、残された家族が現実と向き合って死別の準備をすることを、手助けしている。
「死期を早めるなんてできない」夫の思い
カロリーナさんの家族は「生きることができるのであれば、安楽死を選択すべきではない」という立場だ。 ドミンゴさんは、余命が宣告されたからこそ、残された時間を大切にできると話す。 「ホスピスではあらゆる痛みと不快な症状を和らげてくれ、妻は一日中、家族の愛情に包まれて穏やかに過ごしています。私も妻も安楽死を考えたことは一度もありません。妻、そして子どもたちの母親の死期を早めるなんてできるわけがありません」
ドミンゴさんは、末っ子のアナさん(9)とパルマさん(12)にも、カロリーナさんの病状を包み隠さずに話した。 「ママは具合が悪くて、もうすぐ天国に行くかもしれないと伝えました。娘たちは『どうしてこんなに辛いことが起きるの』と泣くこともありました」 2人は幼いなりに母親が旅立つ現実を受け止め、最後の日々を過ごしている。 パルマさんは「ママはすごくクリエイティブな人なの。手を握ると強く握って笑ってくれるの」と母親の自慢をし、アナさんも「そう、手をぎゅうって。それでニッコリして。とっても良い人なの」と続けた。