安楽死合法の国で―― 余命3か月の母を支える家族 激痛に耐え、法制化を求めた男性
生きる道選ぶも「安楽死は心のお守り」
ラファエルさんは「生きる道を選びたい」と思う一方で、これ以上、耐えられない痛みに襲われた時のために「安楽死できる選択肢がほしい」として、国に安楽死の合法化を求めてきた。 「安楽死法が成立、施行されてホッとしました。安楽死することで、誰かに罪を負わせることはなくなったのですから。私は死にたいのではなく、生きたいのです。ただ、苦しみに耐えられなくなった時のために、銃に弾を込めておきたいのです」 一人息子のラファエルさんを介護してきた母親のマリサさん(74)は、最後まで生きてほしいと励まし続けてきた。 「私が議員だったら安楽死法を成立させませんでした。しかし、息子がそれを望むのであれば止められません。彼の命は彼自身が決めることですから」 ラファエルさんは「死ぬ権利は生まれる権利と同じだ」と訴える。 「私は生きることを尊重しているからこそ、なんとか『生』にしがみつきたいのです。痛みに耐えるためには、安楽死の選択肢が残されていることが支えとなっています。安楽死は生きるための『心のお守り』なのです」
安楽死の是非 スペイン国民の9割が支持
2021年3月、スペインで安楽死を認める法案が可決された。自殺を戒めるカトリックの多いスペインでは、伝統的に安楽死に反対する声が根強くあった。 しかし、1990年代に事故で手足が麻痺したスペイン人男性が、自ら死を選ぶ権利を主張した法廷闘争を繰り広げた後、友人の手を借りて死を遂げた。 死後、彼をモデルにした映画「海を飛ぶ夢」が公開されて以降、議論が活発化し、2019年の世論調査では国民の約9割が安楽死を支持。死の「自己決定」の権利を求める当事者らの訴えに応えるかたちで、国が安楽死法を成立させた格好だ。 安楽死法は2002年にオランダで初めて施行され、ヨーロッパで次第に広がっていった。法制化されていないが事実上、安楽死が認められる国は、アメリカやオーストラリアの一部の州を含めて、世界で10か国以上に上っている。