吉村界人が語る『地面師たち』出演の影響と最新作への思い
吉村が主演を務める最新作『WelcomeBack』
そういって笑いながらタバコに火を灯す。実は彼、自身が作詞作曲を務めたその名も「CigaretteCoffee」を、2018年にリリースしミュージックビデオではSUMIREとの共演も果たした。奇しくもこの連載記事のタイトルは、『Coffee and Cigarettes』。何やら浅からぬ縁を感じるが、吉村にとってタバコとコーヒーは特別な存在だ。 「撮影前の緊張している時や、リラックスしたい時に吸うことが多いですね。銘柄はラークマイルドで、1日1箱くらい吸っています。コーヒーも、友人からもらった手動のミルで豆を挽いてドリップしていますよ。タバコとコーヒーで気持ちをリセットするというか、一人の時間を作ることができる。そういう意味で、僕にとってどちらも単なる嗜好品ではないんです」 そんな吉村が主演を務める映画『WelcomeBack』は、第40回ワルシャワ国際映画祭に選出された話題作。粗暴ながらもヒールとして人気の新人ボクサー・テル(吉村界人)と、彼の強さを誰よりも信じている純粋無垢なベン(三河悠冴)の強い絆、そしてやがて変わりゆく関係性を描いたユニークなボクシングロードムービーだ。「僕の父がボクシング好きで、子どもの頃は家の地下にサンドバッグがあったんです。父と一緒に遊び半分でそれを叩いていた記憶がありますし、試合もよく一緒に見ていました。そんな家庭環境だったので、この役が回ってきた時は感慨深いものがありました」 監督の川島直人とはプライベートでも親交があり、この映画の構想も早い段階から耳にしていた吉村。ようやく仕上がった台本を読んだ時には「絶対に俺が演じたい」と強く思ったという。「普通のボクシング映画って、派手なエンタメ要素が強いことが多いですよね。でもこの作品は、そういうド派手な感じではなく、一個人の内面的な勝敗に焦点を当てているんです。ボクシングって、勝ち負けが数字でハッキリと示されるシンプルな世界ですよね。でもこの映画では、試合結果以上に『その後の人生をどう生きるか?』が描かれていて、そこが面白いと思いました」 テルというキャラクターには、吉村自身の心情を重ねる部分も多かった。「冒頭のセリフにもあるように、ヒール役って一度演じてしまうと後には戻れなくなる。僕は自分のこと、今までヒールだなんて思ったことなかったんです。不良でもないし、割と普通で真面目なほうなんじゃないかなって。でも、役者の道を目指すようになってからは、自分はいつも窓際にいるような感覚がずっとあったんですよね。同期の俳優ともあまり馴染めないし……もし自分を主人公かヒールかで分けるなら、やっぱりヒール寄りかもしれないと最近は思っています」 川島監督は吉村の3つ年上で世代も近い。他のスタッフも若い世代が多かったこともあり、撮影現場は常に風通しが良かったと話す吉村。「だからこそ、新しい撮り方を試してみるなど、普段やらないようなことにみんなで挑戦する感じが楽しかったし、それ自体が現場の一体感にもつながっていましたね」 この映画をどんな人に見てもらいたいかという質問には、彼は少し考えた後にこう答えた。「勝ち負けについこだわってしまう人にこそ観てもらいたいかな。日常のほんの些細なことでも『あの時、ああしていれば……』と感じることってあるじゃないですか。そういうのを気にする人って、僕はピュアだと思うんです。この映画は、人生における『次の一歩』をどう踏み出すか迷っている人に、響くものがあるんじゃないかなと」 そして、これからの俳優人生をどう送っていきたいか最後に尋ねてみた。「世の中って何かしらカテゴライズしないと商品として売れない部分があるじゃないですか。でも僕自身はその枠にとらわれたくないんです。馴染めない界隈に対し、以前はヒップホップっぽいというか好戦的なスタンスを取っていたけど、今はどちらかといえばレゲエの気持ち?(笑)。常にユーモアを忘れずにいたいんですよね。俳優同士のマウント合戦や過剰な承認欲求に巻き込まれず、遊び心と共に『自分らしい生き方』を貫いていけたら最高ですね」 Rolling Stone Japan vol.29(2024年12月25日発売)掲載 『Welcome Back』 2025年1月10日より、 ヒューマントラストシネマ渋谷ほか 全国順次公開 ©2025 GunsRock 監督:川島直人/脚本:川島直人・敦賀零/撮影:岩渕隆斗 出演:吉村界人、三河悠冴、遠藤雄弥、宮田佳典、優希美青、松浦慎一郎、テイ龍進、菅田俊 2024年/日本/DCP・BD/カラー/119分/シネマスコープ/ステレオ/製作・制作会社:GunsRock /配給:パルコ 吉村界人 2014年、内田俊太郎監督の自主制作作品「ポルトレ PORTRAIT」で映画に初主演し、以降、映画やTVドラマなどで異彩を放つ唯一無二の存在として活躍の場を広げている。主な出演作に『ミッドナイトスワン』(2020年・内田英治監督)、『神は見返りを求める』(2022年・田恵輔監督)、『サイレントラブ』(2024年・内田英治監督)などがある。16年、青春群像劇「太陽を掴め」に主演した。2024年は大根仁監督によるNetflix ドラマ『地面師たち』にホスト役で出演し話題に。TBS1月期火曜22時の連続ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』、ABEMAオリジナルドラマ『警視庁麻薬取締課 MOGURA』(1月9日配信開始)が控える。
Takanori Kuroda