「猫派の一条天皇」飼い犬に命じた“恐ろしい処罰” 中宮や清少納言も同情した「翁丸」の悲しい逸話
帝の怒りは馬の命婦にも及び「おもとのお世話係をほかの者に代えてしまおう。このようなことでは安心できない」とおっしゃったのです。馬の命婦は、帝のお怒りを恐れて、御前に顔も出せない状態でした。 さて「不届者」の翁丸は打たれるうえに、配流が決まったのですが、罰を与えるためには、捕まえないといけません。そこで、みんなで翁丸を捕まえようとしたそうです。 捕まえる最中(一体、自分は何をやっているのだろう)と疑問に思った人はいたのでしょうか。いや、みんな、捕まえることに精一杯だったに違いありません。
清少納言は、この犬の翁丸に同情していたようです。『枕草子』には、「本当に可哀そうに。最近まで威張った顔して歩いていたのに」「中宮のお食事のときには、お余りを頂こうと、庭先にきて、こちらを向いてかしこまっていたのに。いなくなってしまい、つまらない」などと書いています。 ところが、それから3、4日ほど経ったある日の昼頃。犬が激しく鳴く声が、清少納言の耳に届きます。しかも、その声は全然やみません。 何だろうと思い、人間ばかりか、御所にいた犬までも、鳴き声が聞こえる方に向かっていきます。
すると1人の女性が清少納言のほうに駆けつけて「大変です。犬を2人の蔵人が打ちのめしているのです。このままでは、死んでしまう。帝が流罪を命じた犬が帰ってきたというので、どうやら懲らしめているとのことです」と言うではありませんか。 その報告を聞いた清少納言は(嫌な知らせだ。やはり、翁丸だったのだ)と思ったようです。 清少納言はそれを止めるために、報せを伝えに来た女性を走らせます。しばらく経つと、犬の鳴き声はやみました。
■体が腫れたひどい状態の犬が歩く姿 その女性が清少納言のもとに帰ってくるやいなや「犬は死んでしまったので、御門の外に放り捨てられました」と話します。「何と酷いことを」と女房らが噂するなか、夕方に、体が腫れ上がってひどい状態になった犬が、苦しそうにヒョロヒョロと歩く姿が目撃されます。 清少納言もその姿を見て「翁丸だろうか。最近、こんな犬がうろついていたかしら」と声を上げました。誰かが「翁丸」と声をかけますが、その犬は見向きもしません。