韓国5大メジャー対竹やり日本の奇跡 「侍タイムスリッパー」は世界映画界の新しい成功モデル
カンヌから届いた一枚の写真で始まった2023年5月22日の朝が今でも忘れられない。映画祭のメイン上映館であるリュミエール大劇場、2300席に及ぶ客席をぎっしりと埋め尽くす観客、ミッドナイトスクリーニング部門正式出品作「プロジェクト・サイレンス」の上映が終わっていた。23年前、復学生と現役の3年生として出会った中央大学演劇映画学科の後輩、金泰坤(キムㆍテゴン)の2本目の長編商業映画。デビュー作から7年という長い待ち時間を無駄にしないほどの大作で、20億円近くの予算がかかったCJ ENMのブロックバスターだった。「やった」。スマホを見ながらベッドで歓声を上げた。自分のことのように興奮せずにはいられなかった。 【写真】剣に人生をかける男たちの哀愁を帯びた人間ドラマが胸に迫る 「侍タイムスリッパー」の一場面 しかし、その約1年2カ月後(24年7月12日)に公開された同作の韓国での興行成績は無残だった。全国のシネコンで上映終了した8月6日時点で観客動員数は68万6700人。400万人以上という損益分岐点を考えると言うまでもない「惨敗」だった。主演俳優の李善均(イㆍソンギュン)がスキャンダルで悩み自ら命を絶ったことが逆風として働いたのか。それにしてもあまりにもひどい結果。08年から2本のインディーズ映画で能力を認められ、成長してきたキムのサクセスストーリーが止まるようだった。しかし、今の韓国映画界の状況を見ると、このような状況に置かれているのは彼だけではない。
改めて明らかになる大資本への依存
親友の羅濟基(ラㆍジェギ)「韓国日報」大衆文化チーム長に聞くと、かなり腕の良いプロデューサーとして位置づけられていたA社の代表も「メジャー社が出資検討会議をほとんどしていません。25年間映画の仕事をしてきましたが、企画であれ撮影であれ、仕事が完全に途絶えたのは今回が初めてです」と愚痴をこぼしていたという。 実際、8月末に韓国の5大メジャー社(CJ ENM、ショーボックス、ロッテエンターテインメント、NEW、プラスMエンターテインメント)が製作中の映画はわずか10本程度。コロナ禍で公開が延期された「お蔵入り映画」が全て公開されてしまえば、深夜2時まで続く韓国シネコンを満たす韓国映画の枯渇は現実味をおびる。 だからといって、インディーズ映画の事情は日本とは比べものにならないほど劣悪なため、枯渇を埋める何の期待もできない。ここでさらに深刻なのは、00年代初めから業界をリードしてきたCJ ENMの不振である。製作中の映画は2本、新規出資映画はたった1本、23年に公開した作品の半分にもならない。プラスMエンターテインメントが「犯罪都市4」と「ソウルの春」でやっと1000万観客動員で韓国映画の名声を維持したが、テントポールムービー(Tentpole Movie=大ヒット映画)で形だけを維持するのは、むしろ衰退の前兆ではないかという気さえする。学生時代、イギリス留学から帰ってきて「誰がイエスを殺したのか」という破格の短編映画を披露し、後輩の我らを誇らしげにさせ、「インサイダーズ 内部者たち」、「KCIA 南山の部長たち」などのヒット作を相次いで発表した禹民鎬(ウㆍミンホ)の「ハルビン」が韓国で12月24日に公開されたが、CJ ENMが業界に再び活気を吹き込むという楽観はできない。大資本に依存していた業界の限界を改めて明らかにするだけだ。