フランス総選挙の危険な賭けにフランス国債市場が動揺:欧州債務危機と似た構図に
ねじれ現象「コアビタシオン(共存)」が現実味
6月9日の欧州議会選挙で、フランスの与党連合は極右政党「国民連合」に大差で敗れた。国民連合は得票率31.3%を記録する一方、マクロン大統領が率いる与党連合の得票率は14.6%にとどまった。 これを受けてマクロン大統領は下院を解散し総選挙を決めた。6月30日に第1回投票、7月7日に決選投票を実施する。7月下旬のパリ五輪開幕を前に、突如総選挙が実施されることになったのである。 このマクロン大統領の決定については、明確な勝算が見えないことから、「非常に危険な賭け」との見方が多い。比例代表制の欧州議会選と比べて、2~3人の候補者が競う国政選挙では、国民連合が不利になるとの読みがマクロン大統領にはあるのかもしれない。しかし、マクロン大統領の支持率が大きく落ちている現状では、やはり危険な賭けに見える。マクロン氏はすでに議会で過半数を失っている。 仮に、総選挙で国民連合が勝利して第1党に浮上し、さらに右派の連携が進めば、同党から首相が選任される可能性が出てくる。フランスの政治制度では、大統領は議会の多数派の支持を念頭に首相を指名することになっているためだ。大統領と首相は右派のねじれ状態である「コアビタシオン(共存)」が現実味を増してくる。そうした状態は、1997年以来のこととなり、政策運営は一層困難となる。 国民連合は現在、1年以上就職しない移民への住宅供給の停止、欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会の廃止、北大西洋条約機構(NATO)からの脱退など、極端な公約を掲げている。
フランス金融市場は動揺しトリプル安に
マクロン大統領の決定は、フランスの金融市場を動揺させている。解散の発表を受けて、フランスの10年国債利回りは、3.0%台から一時3.3%台まで上昇した。2023年11月以来、約7か月ぶりの高水準である。 これは、極右政権が発足すれば、ポピュリズム色の強い財政拡張政策が実施され、財政環境が一段と悪化する見通しを反映している。フランスの財政環境は既に悪化しており、今年の財政赤字のGDP比は5%超が予想されている。 S&Pグローバルは5月に、フランス国債の格付けを引き下げた。債務が膨らみ財政赤字が続いている点を指摘した。 また、銀行株が大幅に売られた。銀行が大量に保有する国債の価格下落が、銀行の財務を悪化させるとの見方が強まったためだ。さらに、極右政権が成立すれば、銀行に超過利潤税を課される可能性があるとの見方も背景にある。さらに、フランスの金融市場が動揺すると、ユーロも下落した。フランスの金融市場では、通貨安、債券安、株安のトリプル安が生じたのである。 フランスの金融市場の動揺は日本にも飛び火し、17日には日本株が大幅に下落した要因の一つになった。