劇壇ガルバ『ミネムラさん』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
「泣く女」を表現するため、セロファンでカツラを制作
中井 そして、衣裳は竹内さん。 陣内 メイクは山口さんにお願いするけれど、それ以外の部分をどうしようかなと思っていた時期に、カムカムミニキーナのお芝居を観に行ったんです。そしたらたくさんの俳優さんたちがものすごいスピードでいろんな役柄に扮装していたんですね。人間だけじゃなくて、魚とかもあった。その衣裳を担当されていたのが竹内さんでした。出演されていた八嶋智人さんの奥様で劇壇ガルバの旗揚げ公演の出演者でもある俳優の宮下今日子さんを通じて紹介していただきました。 中井 竹内さんは、声をかけられてどう思われましたか? 竹内 楽しそうだなと思いました。ぜひ衣裳を作ってみたいなと。 中井 実際にはどこからどこまでが竹内さんの担当範囲ですか? 陣内 3パターンの衣裳、つまり服と装飾品、そしてこの「泣く女」のカツラが竹内さん作です。 中井 このカツラはCGではなく、実物が存在するわけですね? 竹内 はい。ちょっと透明感を出したいと、ワイヤーにカラーセロファンを巻き付けてつくりました。 陣内 このカツラもですが、私は現代風女性のイヤリングが完璧にイメージ通りだったことに感動しました。とんがっている襟はつけ襟を作ってくださったんですが、これも印象的だったので実際のチラシではこの部分を強調して目立たせました。竹内さんには本番の衣裳もお願いしています。 中井 本番の衣裳はまた違った難しさがありますか? 竹内 そうですね。脚本を読むと、幻想的な部分と、実際ありそうな話とが入り混じっているんです。だから、ちょっと宙に浮いたような感じが出せるといいなと思いながら手掛けています。チラシでも透け感を意識しましたが、本番の衣裳にもちょっと透け感を取り入れられたらいいなと思っています。
アナログとデジタルが混在する手法で
中井 そうやって衣裳、カツラとメイクが決まり、それを撮影するのが加藤さん。 加藤 はい。 陣内 写真を加藤さんにお願いしたのは『錆色の木馬』からでしたっけ? 加藤 3回目の公演(『THE PRICE』)も、パンフレットの写真は僕が撮ってるよ。 陣内 あ、そうでしたね。加藤さんは山崎がずっと仲良くさせていただいていて、半ば劇団員のように無理難題にお付き合いいただいています。この撮影のときも、加藤さんのご意見もあって「泣く女」風の女性のまつ毛を最後に足したんですよね。 加藤 ファインダーごしに覗いてみると、ちょっと目が弱いかなと感じて。ちょっとした違和感ですよね。 陣内 リエさんも「あったほうがいい」と言ってくださったので足したんですが、あってよかったなと思います。 中井 加藤さんは撮影のとき、思い描く表情を引き出すためにどんなことをされますか? 加藤 気持ちを聞きますね。「今どんな気持ちか考えて」と。ハッピーなのか、悲しいのか。貴婦人風のほうはちょっと高貴な感じを出すために上を向いてもらったりね。照明も3パターンそれぞれで変えました。 中井 そうして撮影したものを、陣内さんがデザインしていく。 加藤 プリントしたやつを切り取ってね。 中井 え!? これ、出力したものを実際に重ねて作られているわけですか? 陣内 はい。コンピューター上でやったほうがきれいにできるかもしれませんけど、絵画のようにしたかったので、ローテクな作業で作っていきました。加藤さんのご提案で「泣く女」の髪だけはキャンバス地にプリントして、素材感を加えました。 中井 すごい。まさかこれが実際にモノとしてコラージュされていたとは。 陣内 アナログとデジタルが混在したつくりになっています。絵の背景も実物で、そこに写真を貼ったものを撮影して使っていますが、周りの壁は写真データです。ちなみにこの壁、ロンドンのナショナル・シアターのものなんですよ(笑)。 中井 そこに飾られている、「ミネムラさん」という女性の肖像というわけですね。言われてみればすべてが加工ではなく人の手が入っているからこそ、こんなにも惹かれるのかもしれません。 陣内 自分のイメージをどう着地できるか考えた結果、この方法に落ち着きました。 中井 ちなみに、顔といっしょに写っている手は? 加藤 これも撮影しましたよ。 陣内 実際に腕を白塗りしていただいて撮影しましたが、かなり形を加工しています。物語は3人の作家が描きますが、それぞれ独立しているわけではなく、三位一体になったひとつの話なんです。それをビジュアルでも表現したかったので、腕を入れることでまとまりをよくしました。