<高校サッカー>悲願初Vへ。152人部員を束ねる前橋育英のサバイバル紅白戦
山田監督も思ったことを真正面から選手たちにぶつけた。サッカーの面でいえば、フィジカルの強さが足りないと見るや、体育館で毎朝30分間の体幹トレーニングを課した。ヘディングも弱かったので、タイミングを計ってボールをはね返すメニューも毎日のように実施した。 もっとも、話し合いを通じて把握できたことは、メンタルの部分でちょっとずつ積み重なった「緩み」だった。山田監督は「負けてしまった理由はサッカーの部分だけではない」と諭し、寮生活を自主的に改善するように求めた。指摘されて我に返ったと、大塚も恐縮そうな表情を浮かべる。 「掃除などを上下関係のもとで下級生にやらせていたし、そういった私生活の部分からも変えていこうと。食事の用意を含めて部屋ごとの当番制にしましたし、あとはチーム内の雰囲気ですね。夏以降は2年生以下が抱いている意見を、上級生に対して言いやすい環境を作るようにしました。 僕自身も周囲に対して厳しい意見を言える性格ではなかったんですけど、キャプテンとしてもっと変わらないといけないと思って。批判を浴びてでも恐れずにどんどん言ってきたら、チームを上手くまとめられるようになった。自分が変わったことで、チームも変われたのかなと」 夏場をすぎても、紅白戦は毎週水曜日に実施されるようになった。競争意識が煽られた結果として、インターハイ予選で負けたときからレギュラーは半分近くも入れ替わった。特に4バックで組む最終ラインは、2年生が占めるようになった。 「選手一人ひとりは決して悪くはないんですよ。個々の力はあったので、何かのきっかけがあって光が見えてくればと思っていた。その意味で、きっかけを発見できたのはよかったのかなと」 山田監督によれば、インターハイ予選までは個々の力に頼りすぎていたという。そこに初戦という独特の緊張感が加わり、トーナメントを勝ち上がってきた常磐の踏ん張りの前に、チーム全体が空回りして機能不全に陥ってしまった。 きっかけとは屈辱の黒星に導かれた徹底した話し合いであり、その結果としてつかんだいま現在のチームの戦い方を大塚はこう表現する。 「技術はないけどチームワークで戦おうと。気持ちの部分では絶対に負けない、と」 前へ進んでいくうえで揺るぎない羅針盤を得たチームを、自信という意味で後押ししたのが8月8日から石川県で開催された「和倉ユース(U‐18)サッカー大会」だ。Jクラブのユースを含めて40チームが集った真夏の激戦で頂点に立った前橋育英は、雄々しく復活の雄叫びをあげた。 そして、数奇な運命に導かれるかのように、同大会の準々決勝で下している青森山田(青森)と、ともにチームだけでなく県勢としての初優勝をかけて9日の決勝戦で再び邂逅を果たす。 和倉の地ではお互いに0‐0で譲らず、PK戦の末に白星をつかんだ。しかし、その後の青森山田は高円宮杯U‐18サッカーリーグEASTを制し、年末に行われたチャンピオンシップでもサンフレッチェ広島ユースを撃破。実施的な高校年代の日本一チームの称号を手にしている。 今大会も優勝候補の肩書通りに勝ち進み、司令塔・柴崎岳(鹿島アントラーズ)を擁した2009年度大会以来、7年ぶり2度目の決勝進出を果たした。いわば「横綱」にランクされる絶対的存在にも、悔しさを糧にどん底からはい上がってきたいま現在の前橋育英が怯むことはない。 「前線の選手はかなりパワフルだけど、一人、二人と(マークを)はがせれば勝てるサッカーなのかなと思います。今日の前半にできたような、前線からコンビネーションを使って相手ゴール前に迫るのと、あとは決定力ですね。そこは最後の練習で調整して、臨みたいと思います」 大塚がチーム全員の、余計な気負いもいっさいない気持ちを代弁する。どちらが勝っても新たな歴史が刻まれる大一番は埼玉スタジアムを舞台に、午後2時5分にキックオフを迎える。 (文責・藤江直人/スポーツライター)