井上咲楽 5歳の時の好物は「いもがら」。何でも手づくりする母のもとで育った幼少期、友達と交換した「冷凍グラタン」の虜となり…
◆口に入れた瞬間、冷凍グラタンの虜になった 幼稚園のお昼はお弁当を持って行く日と給食が出る日が交互になっていた。 絵の具で塗ったような発色のいいタコさんウィンナー、ふかふかな黄色いナゲット、あざやかな色のピック……。お弁当の日は、友達のカラフルでポップなお弁当が眩しく見えた。 特にびっくりしたのが、友だちとお弁当の具を交換した時にもらった冷凍グラタンだ。 口に入れ、舌に触れた瞬間においしさが伝わってきた。私は一瞬で、クリーミーでまろやかなグラタンの虜になった。よく噛んでようやくおいしさがわかるような素朴な食べ物ばかり食べていた私は、脳が覚えて忘れられないグラタンのあのおいしさをもう一度味わいたいと、そう思った。 しかし、母に冷凍のグラタンを買ってほしいと普通に頼んでみてもきっとダメだと言うだろう。幼い私なりに考えて、「冷凍グラタンのカップの底には占いが書いてあって、それがやりたいから買ってほしい」とお願いした。 すると母は、占いが書いてあるカップを買ってきて、そこにおかずを入れてお弁当に詰めたのだ。 こちらの真意を見抜いているのが、なんとも母らしかった。
◆穏やかだが強くて頑固な母 母の手作り癖はすごかった。私が幼い頃、スーパーに並ぶおいしそうな菓子パンを見て食べたいと言うと、母は「パンが食べたいのね」と家に帰って天然酵母を使ってパンを作ってくれたくらいだ。 天然酵母入りのパンは時によって発酵具合が違っていて、酸っぱかったり、硬かったりした。大人になった今ではドイツパンやカンパーニュなどハードなパンが好きになったが、幼い頃は口を切ってしまいそうなくらい硬くて甘さが少ないハードなパンは、理想のパンとは違っていた。当時の私は、チョコスティックのパンのような、甘くてふかふかなパンが食べたかったのだ。 結局、母はパン作りの勉強を重ね、最終的には作ったパンをパン屋さんで売るくらいにまでのめり込んでいた。 母は穏やかだが強くて頑固な人だと思う。 小学生の時、洗濯をしてくれていたのは母だった。取り込んだ洗濯物を運んできてくれた母に、「これ私のものじゃない」とちょっとした難癖をつけたら、「じゃあ明日から全部自分でやってね?」と言われ、その翌日から成長して一人暮らしをするまで、本当に自分で干すことになった。 一度決めたら変えない、静かに頑固な母だった。 ※本稿は、『じんせい手帖』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
井上咲楽
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