天の川銀河で「ダイソン球」の候補を7個発見? 違ったとしても興味深い発見
■「プロジェクト・ヘーパイストス」がダイソン球候補を7個発見?
ただし、原理的には他の方法でもダイソン球を発見することができます。ウプサラ大学のErik Zackrisson氏をリーダーとする「プロジェクト・ヘーパイストス」は、そのようないくつかの方法を使って天文観測のデータを分析し、ダイソン球を探索することを目的としています。ヘーパイストス(ヘパイストス)はギリシャ神話において神々の武具などを作った炎と鍛冶の神を指します。 プロジェクト・ヘーパイストスは、分析方法および対象とする天体の違いによって以下の3つに分類されています。 I. 銀河に属する大半の恒星がダイソン球で囲まれている銀河の探索 II. 天の川銀河の中で、ほぼ完全にダイソン球で覆われた恒星の探索 III. 天の川銀河の中で、部分的にダイソン球で覆われている恒星の探索 このうちIとIIIについては、すでにある程度の探索成果が発表されています。Iの対象である「大半の恒星がダイソン球で覆われている銀河」は、銀河330個あたり1個未満であることが示されています。IIIの対象である「部分的にダイソン球で覆われている恒星」は、例えば全体の90%程度を覆っているダイソン球の場合、存在数は恒星5万個あたり1個未満であるようです。このように該当する銀河や恒星が存在する確率は低く、残念ながら今のところダイソン球の発見には至っていません。 そしてプロジェクト・ヘーパイストスは今回、IIの対象である「ほぼ完全にダイソン球で覆われた恒星」についての新たな観測結果を発表しました。この研究では「ガイア」「2MASS」「WISE」といった、いずれも多数の天体を観測しカタログ化するプロジェクトの観測データを分析しています。
恒星の周囲をほぼまんべんなく覆うダイソン球が存在した場合、ダイソン球は恒星の放射をほとんど完全に遮断してしまいます。その一方で、エネルギーを変換する過程では排熱が必ず生じます。排熱は熱力学の法則によって発生するものであり、どんなに高度な文明であっても排熱をゼロにすることはできません。従って、ダイソン球を遠くから見れば、他の波長では暗いのに赤外線の波長でのみ異常に明るく見える天体として映るでしょう。 ただし、自然にダイソン球のような環境が形成されることもあります。恒星を取り囲む塵や小惑星帯はダイソン球のように恒星からのエネルギーの一部を遮断し、受けたエネルギーの一部を赤外線として放出します。また、銀河やクエーサーなど、無関係な天体が恒星の後ろ側に重なって存在する場合、そこから放出される強力な赤外線放射が混ざってしまうこともあります。ダイソン球の探索におけるこうしたノイズは、光のスペクトルを厳密に分析したり、恒星までの距離を測定したりすることで自然要因を特定して排除することができます。 今回の研究では、最初に約500万個の恒星に対していくつかの基準で自動的にフィルタリングを行い、候補を368個まで絞り込みました。続いて、自然要因で説明可能だがフィルタリングをすり抜けてしまったノイズが含まれていないかどうか、368個の候補を手作業で1個1個精査しました。その結果、ダイソン球の可能性がある天体の候補として最終的に7個の恒星が残りました。今回の研究で見つかった地球に最も近い位置にある候補は、地球から約466光年離れた位置にある「Gaia DR3 3496509309189181184」という恒星です。