エコと安全は両立しない? 過熱する燃費競争で重視される「エコタイヤ」とは
タイヤの性能はトレードオフの関係
タイヤの性能について厳密に語りだすと本当にキリが無い。専門家になればなるほど、条件を細かく設定しない良いとも悪いとも言えなくなるのだ。 しかし、ほとんどの人はエンジニアレベルの緻密な話を求めて無い。なので専門家の方からブーイングが出るのを承知で、普通のユーザーに解り易くするために、出来る限りたとえ話を多用して説明したい。 タイヤの性能は、ドライ性能、ウエット性能、静粛性、ライフ(寿命)の4項目、あるいは価格も加えて5項目でいいだろう。それぞれの項目は階層構造にまた分化されるから、とてもではないがその全部を語ることはできない。今回はエコタイヤを語るキーワードとしてドライ&ウエット性能の話をしていきたい。 今、市販されているタイヤで日常運転域でドライ性能に問題があるタイヤはほぼない。一番条件の良いドライでダメなら、厳しい条件では使い物にならない。一応念のために付記しておくと、どんなに大人しく運転していても自動車には事故はつきものだ。そして事故が起きる時は瞬間的に日常領域を超えることがある。そういう場面での性能差を言いだせばその差は今でも歴然とあるし、タイヤ選びに慎重になることは決して無駄では無い。有名ブランドのタイヤが必ずしも良い訳ではないが、無名ブランドを選ぶ理由は価格だけだ。 タイヤは様々な性能に折り合いをつけてバランスさせる商品だ。性能のひとつひとつがかなりトレードオフ関係にある。例えば前述の通りエコとウェットグリップは原則的に相反するし、グリップとライフもかなり相反する。乗り心地とドライグリップもまた相反する傾向にある。 何かを我慢しなくては何かが得られない。欲張って全部の項目で良好な結果を出そうとしたら、今度はコストがかかる。だから身もフタも無い話だが、値段を我慢するのもひとつの方法だ。高いタイヤが必ず良いわけではないが、良いタイヤは大概高い。
タイヤの摩擦はなぜ起きる?
タイヤが摩擦を発生する仕組みは大まかに二種類ある。ひとつはアドヒージョン。いわゆる粘着力のことで、例えて言うならガムテープが貼りつくようにタイヤが路面にくっつく力による摩擦力だ。こっちは直感的に解り易いので問題ないだろう。 しかしもうひとつの仕組みが問題だ。メカニズムがとても解り難い。その摩擦力はヒステリシスロスと言う。タイヤは走行中路面によって常に変形させられている。金属のばねなら変形の時加えられた力がそのまま戻って来る(厳密には減衰は起こる)のだが、ゴムの場合は加えられた力は大きく減衰する。ゴムは変形させられるとそのエネルギーの一部を吸収して熱に変える特性があるのだ。 ひどいたとえ話かもしれないが、ばねの場合100円入れると100円返ってくるが、ゴムの場合例えば60円しか返ってこないのである。40円分のエネルギーはチカラから熱に変換されてしまうのだ。物理の専門家はこの内部に食われた40円分路面とタイヤの間で摩擦力が発生するのだと言う。 初めてこの説明をされてスッキリ納得する人は稀だと思う。なので、ちょっと似た話をする。ゴムを変形させることのエネルギーが抵抗(摩擦力)になるケースだ。自転車のタイヤの空気圧が下がっていると、タイヤは変形代が大きくなる。ペダルを踏んでも重たくてあまりスイスイとは走らない。この場合ヒステリシスロスだけの問題ではないのだけれど、ゴムがより大きく変形すると摩擦が高まる法則を体感的に納得するには解り易いのではないだろうか。 さて、とにかくアドヒージョンとヒステリシスロスという二つの摩擦の仕組みでタイヤは路面をグリップしている。それは覚えてもらえたと思う。 ドライの路面では二つの摩擦の仕組みをしっかり働かせることができる。ところが雨で路面が濡れるとアドヒージョンは大きく失われる。濡れた場所ではガムテープはくっつかないのだ。雨の日にタイヤのグリップが落ちるのはこのせいだ。 一方でタイヤの変形は濡れていようが乾いていようが関係なく起きる。だからヒステリシスロスによる摩擦は濡れた路面でも低下しない。その結果濡れた路面での摩擦力の主役はヒステリシスロスになるのだ。言ってみればヒステリシスロスは濡れた路面でタイヤがグリップするための最後の砦であり救世主なのだ。