不妊治療は私の想像をはるかに超えた。夫にひどい言葉を投げつけたことも【エッセイスト・潮井エムコ】
私という人間に、母親としてのスイッチが入った瞬間
――自分がママになったと実感したのは、産後いつごろですか? エムコ 帝王切開だったので、出産当日と翌日はひたすら1人で壮絶な痛みを耐える時間でした。その間、赤ちゃんは新生児室に預かってもらっていました。産後3日目から母子同室の予定でしたが、帝王切開の傷が痛すぎて。ベッドから立ち上がるのも、用をたすのも、歩くのも激痛です。こんな状態で赤ちゃんと一緒に部屋で過ごすなんて絶対に無理! と思っていたんです。 産後3日目の朝、赤ちゃんを寝かせるためのベビーコットを歩行器代わりにして、足を引きずりながら新生児室へ向かう途中「私は今日からのお世話はまだ無理です、ごめんなさい」と謝ろうと思っていました。私の満身そういぶりを見た看護師さんに「お母さんがこんなにぼろぼろだったらお世話できないよね、あと1日預かりますね」と言ってもらいたい気持ちでした。 だけど、新生児室で看護師さんが「あ、ママ来たよ~」と抱いているわが子に声をかけた瞬間、信じられないことに私はスタスタと歩き、気がついたらわが子を抱っこしていました。いざわが子を目の前にしたあのときに、「私がこの子を守る」という「母親スイッチ」のようなものがパチン、と入ったような感覚がしました。 ――退院後、赤ちゃんに対面した夫さんはどんな感想を言っていましたか? エムコ 退院するときに初めてわが子を抱っこした夫の感想は「うわあ、かわいいね」でした。まるでペットショップでワンちゃんをだっこさせてもらったくらいのリアクションです。夫は私と違って感情を表に出すタイプではないので、本人なりにかみしめていたんだと思います。私としては、涙の1つや2つこぼして「これから3人家族だな」とか「よく頑張ったな」「ありがとう」とか、そういう、なにか気の利いたひと言があるのではと期待していたんですが…。 だけど、夫が私たちの赤ちゃんを抱っこする姿は、結婚してから5年の間私がずっと待ち望んだ光景だったので、それを見ることができただけで胸がいっぱいでした。 お話・写真提供/潮井エムコさん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部 夫さんはどんな人? の質問に「私と結婚するくらいだから変わった人です」とエムコさん。「だけど私のことをとても大切にしてくれます」の言葉に、エムコさん夫婦が築く家庭のあたたかさを感じました。