日本企業には決定的に足りないのは、「いい意味での“宗教化”」だ「不確実な社会」だからこそ「働く人の腹落ち」が重要!御社は大丈夫?
その様々な施策については、拙著『世界標準の経営理論』や、私が監訳した『両利きの経営』などをお読みいただきたいが、ここでは、新刊『宗教がわかれば経営がわかる』で池上彰さんとの対談で話題となった「特に重要な視点」に絞って解説しよう。 それは、本連載で解説してきた「センスメイキング理論」のことである。 ■「両利きの経営」には「腹落ち」が不可欠 別の記事(「経営」も「宗教」も本質理解できる“超スゴい理論”)でも述べたように、「センスメイキング」とは、不確実性の高い時代に経営者と社員が遠い未来の進むべき方向感に足並みをそろえ、「腹落ち」することだ。
そして、これが「両利きの経営」に不可欠なのだ。 先にも述べたように、企業が「知の探索」を続けるのは大変だ。無駄に見えるし、失敗も多いからだ。 でもその時に、経営者や社員の多くが、「自分たちの進むべき方向感」に「腹落ち」があったら、どうだろうか? その場合、「うちの会社は『知の探索』をやって、投資もなかなかうまくいっていない。でも、我々が作りたい未来の方向感は腹落ちできているのだから、めげずに続けていこう」となるのである。
一方で、経営者や社員に「未来への腹落ち感」がないと、「知の探索」は続けられない。少しでも失敗すると「探索」が無駄に見えて、すぐ腰折れし、「深化」だけに偏るのである。 ■日本企業に足りないのは、いい意味の「宗教化」だ このように考えると、日本企業でイノベーションが起きにくい理由、一方でネスレやシーメンスなどのグローバル企業がどんどん新しいことをやりながらも収益をしっかり上げている(=イノベーションを起こし、その果実を得ている)理由がわかるのではないだろうか。
日本企業の多くは、「センスメイキング」すなわち「宗教化」が足りないのだ。 近年は、イノベーション以外にも、「DX」「ダイバーシティ」「人的資本経営」など、様々な施策が議論され、企業に導入されている。私もこれらの施策には賛成だ。 ただ、より本質的な意味で日本企業に足りないのは「宗教化」なのだ。 センスメイキング(宗教化)が浸透しない限り、企業は遠い未来への腹落ちができない。 結果、リスクがとれず、「知の探索」ができず、「両利きの経営」が徹底できないので、イノベーションが創出されないのだ。
入山 章栄 :早稲田大学ビジネススクール教授