問題は「AIに奪われる仕事は何か」ではない! 一生稼ぎ続けられる「π型人材2.0」になるためのステップ
ビギナーでいることへのプライドを捨てよう
──文字になってはじめて気づくことがあるのですね。 転職活動の予定がなくても、定期的に職務経歴書のアップデートをするのをおすすめします。3か月に一度か半年に一度、自分を客観視したときのアピールポイントや評価される点を考えてみることができるのです。 ポイントは、自分のウリが相手にイメージしてもらいやすいこと。ダイレクトリクルーティングでは、企業側がデータベースの中から、自社の求める人材のスキルセットの単語を検索し、その検索ワードに引っかかった人の職務履歴書が出てくる。なので、自分のスキルセットを「タグづけしやすい形」でまとめておくことが大事になります。 ──『イノベーションのDNA』という本にあった「関連づける力」が、本書ではπの柱を結びつける「Associative Thinking(統合力・連想力)」として紹介されていました。この連想力を磨くために、どんな実践をするとよいでしょうか。 連想力を磨くためには、常に新しいことにトライしていること、つまり何らかの「ビギナーでいること」の習慣化が大事だと思うんですよね。たとえば、Metaのトップであるマーク・ザッカーバーグ氏は、ビジネスにおいてはビギナーの真逆といえる存在。ですが、新たにブラジリアン武術を習いはじめています。それについて「面白いことをやり続けられるかどうかは、また恥をかいたり、初心者に戻って体を蹴られたりすることをいとわないかどうかにかかっているのかもしれない」と答えている通り、無駄なプライドを捨てて、叱られたり失敗するなど恥ずかしい思いをすることに意義があるのだそう。 ビギナーでいることのメリットは、自分と関係のない領域の情報や知識を取り入れたときに、脳内でトランスファーリンクがつくられて、点と点が線になりやすくなるから。これは、ドメインスキルとスパイクスキルを統合するAssociative thinkingそのものです。 たとえば、異業種交流会で、今まで関わりのなかった業界の人と話してみる、でも良いと思います。違う会社の人と話すだけでも、社風の違いなど発見があります。これは、自分のキャリアを客観視することにもつながってきます。仕事に限らず筋トレやマラソンでもいい。どう点と点がつながり、線になっていくかを楽しみながら、積極的にビギナーになる習慣化をおすすめします。 ■組織でのリスキリングは「現場のコラボレーション」がカギ ──組織やチームに「リスキリングへの前向きなマインドセット」をインストールし、学びのカルチャーを定着させるためには、リーダー層・人材育成に関わる人はどんなアクションをとるとよいでしょうか。 組織としてリスキリングを推進するうえで、従業員に「こういうプログラムを提供するから、好きなときに学んでください」というフェーズは終わりました。自社の戦略に合ったスキルセットをいかに従業員に身につけてもらうか。この戦略と人事育成施策・評価の整合性をとらないといけません。 リスキリング推進には「戦略」と「実践」が必要です。まず戦略レベルでは、トップがビジョンとともに「自社に必要な人材像」を打ち出すことが必要です。そのうえで、従業員の目線に立ち、「こうした人材になったらどんな良いことがあるのか」を明らかにする。こうしたコミュニケーションができてはじめて、リスキルが実現できます。 学ぶ内容も、現場でのアウトプットにつながるようにオーダーメイドすることが必要です。座学の授業よりも、未経験のプロジェクトをやるほうがふさわしい場合もあります。 ──たしかに、それなら受講者のコミットメントも上がりそうです。 次に実践レベルでは、学習状況を定点観測しましょう。組織でのリスキリングは、現場でのコラボレーションを重視すると、相乗効果が生まれやすいものです。本人も現状を話すことでモチベーションが上がるし、リアルタイムでの共有が同僚の学びや刺激にもなります。slackでもいいので情報共有しやすいプラットフォームを用意して、あるテーマでリスキリング中の人と経験者をつなぐといった工夫ができるといいですね。 また、導入したプログラムの効果検証も重要です。受講者のどれくらいの割合が修了したのか、それが売上アップにつながったのか。人的資本開示の時代には、こうしたことを個々にメトリクス化して、リアルタイムで管理できるようにするのが理想です。 最近では学習開発に特化した「ラーニング・ディベロップメント」の部署が増えてきています。それくらい、従業員の学習効果について戦略的にデータドリブンでPDCAを回せるような体制が求められていると思います。