「闇バイト」はなぜ凶悪化したか◆狙われる家は?対策は?警視庁キャップ解説 #ネットの落とし穴
「日払い高収入」「ホワイト(合法)案件」といった言葉で人を集め、犯罪の捨て駒にする「闇バイト」の問題が深刻化しています。当初は特殊詐欺の「出し子」などが中心だった闇バイトが、なぜ命をも奪う凶悪事件を起こすようになったのか。身を守るにはどうしたらいいのか。最前線で取材を続ける社会部警視庁キャップに、「トクリュウ」と呼ばれる犯罪組織の実態と対策について解説してもらいました。(時事ドットコム取材班キャップ 太田宇律) 【画像】「闇バイトするくらいならウチに」「日当20~35万」SNSにあふれる不審な投稿 ◆かつての舞台は「闇サイト」 2023年の「ユーキャン新語・流行語大賞」でもトップ10入りするなど、この数年間で急速に知られるようになった「闇バイト」。ただ、ネットを介して犯罪の協力者を募る行為自体は、数十年前から行われてきた。 例えば2007年には、「闇の職業安定所」というネット掲示板サイトで知り合った男3人が、名古屋市で女性会社員を拉致し、キャッシュカードなどを奪って殺害する「闇サイト殺人事件」が発生。当時、犯罪協力者を募る場所と言えばこうした「闇サイト」が主流だったが、その後次第に、ツイッター(現在のX)など一般のSNSでも募集が行われるようになっていった経緯がある。 ◆言い換えで生まれた「闇バイト」 時事通信社会部・警視庁記者クラブの辻修平キャップによると、当初SNSで目立っていたのは、特殊詐欺の被害者から金品を直接受け取る「受け子」や、現金を引き出す「出し子」を募集する投稿だった。警察が警告文をリプライ(返信)する取り組みを始めると、こうした投稿はいったん激減したものの、今度は「U(受け子)募集」や「闇バイト」といった言葉に言い換えて募集が行われるようになったという。 「指定の高級腕時計を購入するだけで5万円」「家電購入アシスタント募集」―。警視庁特殊詐欺対策本部のX公式アカウント(@MPD_tokusagi)が警告の返信をしている投稿には、こうしたさまざまな「求人情報」が並ぶ。「即日即金」「闇バイトではありません」などと言葉巧みにアピールしているが、いったん応募すると身分証や顔写真、家族の情報などを要求され、犯罪に取り込まれていく「闇の入り口」だ。 この数年は、知能犯罪である特殊詐欺だけでなく、かつての闇サイト殺人を思わせるような短絡的で凶悪な強行事件を「闇バイト」が起こすようになってきた。特に、「ルフィ」などと名乗る指示役らによる広域強盗事件は広く報道され、海外から実行犯に指示を出し、時に脅して、約束した報酬も渡さず使い捨てにしていた異様な実態が明らかになった。 ◆暗躍する「トクリュウ」 ルフィ事件のように、互いに本名を知らず、秘匿性の高いアプリなどを使って犯罪のときだけつながる犯罪者集団は「匿名・流動型犯罪グループ」(通称・トクリュウ)と呼ばれるようになった。首都圏の4都県では8月以降、複数の男が住宅に押し入る強盗事件が50件以上発生しているが、逮捕された実行役らの多くが「闇バイトに応募した」という趣旨の供述をしており、捜査当局は「トクリュウ」が関与しているとみて調べている。 闇バイトはなぜ、凶悪な強盗事件を起こすようになったのか。トクリュウは何者で、どうして突然台頭してきたのか。これまでの取材を踏まえ、辻キャップに解説してもらった。 ―まず、闇バイトが強盗事件を起こすようになったのはなぜなのでしょう。 トクリュウが「実行犯を育てなくなった」ということは言えるでしょう。家族や弁護士になりすまして電話をかける特殊詐欺の「かけ子」には、ある程度ノウハウや訓練が必要です。ところが、ルフィグループの場合は、新型コロナウイルス禍で海外との行き来が難しくなり、かけ子の要員をフィリピンに呼び寄せて、育成することが難しくなった。そこで、実行役さえ確保すればできる強盗事件を起こすようになったのではないかとみられています。 ―8月以降、闇バイトを使ったとみられる強盗事件が首都圏で相次ぐようになりました。犯罪のトレンドが、特殊詐欺から押し込み強盗にシフトしたのでしょうか。 トクリュウが関与する事件は特殊詐欺や強盗以外にも、SNSで勧誘する投資詐欺、ロマンス詐欺など多岐にわたります。特殊詐欺の認知件数は特に減少していませんから、「強盗事件にも手を広げるようになった」という方が実態に近いでしょう。 8月以降は、ルフィグループの摘発からある程度時間が経過して「ほとぼりが冷めた」と考えた別グループが、場当たり的に事件を起こすようになった可能性はあると思います。ハイリスクだったはずの強盗事件が、闇バイトを使い捨てにすれば「ノーリスク」になってしまった。指示役にしてみれば、やらない理由がないのかもしれません。 ―狙われる家に共通点はありますか。