「闇バイト」はなぜ凶悪化したか◆狙われる家は?対策は?警視庁キャップ解説 #ネットの落とし穴
「トクリュウ化」していく組織犯罪
強いて言えば「高齢者が住んでいる一戸建て」が目立ちます。「実行犯が逮捕されても替えはいる」と考え、大した事前情報もなく、襲いやすそうな家に手当たり次第に闇バイトを送り込んでいるのかもしれません。 ルフィグループは襲う相手について確度の高い情報を集め、実行役には事前に「日中は高齢男性1人」「自宅に多額現金あり」などと伝えていました。しかし、8月以降の事件では、闇バイトに応じた実行役がこれから自分が何をするのか、直前まで知らなかったり、強奪金が数万円程度にとどまったりするケースが目立っています。 ―トクリュウとは何者で、台頭する背景には何があるのでしょうか。 トクリュウという呼称はルフィ事件をきっかけに警察が便宜上名付けたものですが、この数年で急に現れたわけではありません。現代の犯罪者集団が、闇バイトやSNS、通信アプリを駆使して徹底的に捜査から逃れようとすると、自然とトクリュウ的になる…ということなのだと思います。 日本の組織犯罪と言えば、従来は暴力団が中心でした。組の看板や事務所を構えて、言わば「実名」で犯罪収益を得るわけですから、匿名で活動するトクリュウとは対照的な存在です。組織の全体像や活動実態が見えにくく、一つ一つの犯罪行為だけをみても「これはトクリュウだ」と明確に定義しにくいところもあります。 ―トクリュウの動きに変化はありますか。 「闇バイト」の実態が盛んに報道されるようになり、トクリュウ側から見れば、確実に人集めは難しくなっているはずです。そのためか、短期バイトの募集アプリで一般求人に紛れて募集を行うなど、手段の巧妙化が進んでおり、それに伴って闇バイトと気付かずに応募してしまう人も増えています。 ◆強盗対策、「防犯フィルム」有効? 闇バイトの求人や強盗事件から身を守るためにはどうしたらいいのだろうか。 辻キャップは「『即日即金』や『高額バイト』といった言葉を使ったり、運転免許証などの提示を求めたりすることは通常の求人でもありうる」とした上で、事前に具体的な作業内容がはっきりしなかったり、不自然に高額だったりする求人は警戒すべきだと指摘。警察は闇バイトに応じてしまった人やその家族を保護する取り組みを強化しており、たとえ犯罪に加担してしまった場合も、できるだけ早く警察に助けを求めるようすすめる。 8月以降に発生した強盗事件では、戸建て住宅の窓を割って侵入する手口が目立つ。在宅時でも玄関や窓の鍵をかけるなど戸締まりの徹底はもちろんだが、窓を割られにくくするように、窓ガラスに防犯フィルムを貼ったり、サッシに補助錠を取り付けたりすることは有効だ。防犯カメラや人感センサーライトを設置することも効果的だという。 ◆はびこる闇バイト、背景に「タイパ」 例え指示されて強盗事件に加担してしまった場合も、人を傷つければ「無期または6年以上の懲役」、死亡させれば「死刑または無期懲役」となる。辻キャップは「日給5万程度のアルバイトと思って応募したら、犯罪組織に脅されて抜け出せなくなり、気付けば人殺しまでしてしまうのが闇バイトの恐ろしさ」と語り、「入り口の気軽さと、結果の重大性の落差がものすごく大きい」と強調する。 闇バイトに応じてしまうのは、ギャンブルや「推し活」、スマホゲームの課金などで借金を抱えた10代~20代が目立つという。「コスパやタイパ(タイムパフォーマンス)を重視して、短時間で一発逆転を狙おうとする気持ちが、トクリュウに利用されている。都合のいい高額バイトを求める人がいなくなれば、闇バイト事件は自然と収束するはず」と語った。